心境

ベランダの沈丁花、もう蕾が。
ちょっと早いじゃありません?

季節の移り行くは目まぐるしい。


何週間前から、ふみが悩み事を抱えています。
それは、S君との衝突です。正確に言うと、ふみとではなく、Sくんはほぼ全員とトラブルを起こしています。

2年生あたりから、Sくんが時々暴れることは、よく聞きます。
今年はちょっと頻度が増してるとふみは言うのです。

暴れて、衝突して、最後は必ず座り込んで、膝を抱いて泣くのだそうです。

逃げる子、相手にしない子、愛想を尽く子。
たいへんなのは、ふみは応じる子です。

何回も衝突して、ふみ、一向にやめない、Sくんは掃除をちゃんとしない、Sくんはタオルを振り回してる、Sくんは誰誰を殴った、Sくんは…、
ふみ、一々Sくんに向き合って、止めたり、喧嘩をしたり、ふみだけではなく、サッカー少年のUくんも。

「先生に言ったの?」
「言ったよ、“わかってるわかってる”しか言わないし、まったく頼りにならないから」

先日の自動車工場見学で、Sくんまた暴れて、何人かの生徒を殴って、同行している音楽の先生が止めに入って、先生もSくんの拳に当たられたそうです。

「かなりヤバイよ、学校はちゃんと認識してるのかな全く、どんどんヤバくなってる」

「ふみ、落ち着いて、Sくんが問題あるのは、誰でも知ってる、けど、ふみがどうにかできることじゃないんだから、三十六計の中だって、逃げるのが上策と言ってるのよ。Sくんのいるところから、とにかく避けて、それもさりげなくよ、“逃げよう”とか、言葉を出しちゃダメよ、刺激になるから、黙って去ればいいのよ、君子は危うきに近寄らず」

「逃げる必要がないよ、Sくんのパンチなんて、当たらないし、弱弱しい」

「ふみは自分の体力に自信があり過ぎるから困るのよ。極端の話、もし、もしよ、Sくんがナイフでも持ってたら、ふみはどうする?叶わないでしょう?そう、Sくんはいけない、ふみは悪くない、けど、ケガしたら、話にならないじゃない?痛いのもふみ、心配して悲しいのはパパママ、あと何あるの?…」

繰り返し繰り返し、ふみを説得するわたしです。

金曜日、先生がふみを呼び出しして、Sくんのことで、
「先生が“ふみくんは悪くない、悪くないってわかる、わかるけど、もうSくんのことから、離れて”みたいことを言って、なんか、先生が困ってるのを感じた、いろいろ僕たちに向かって言えないことがあるんだろうなって」

よかったよかった。
少しほっとしました。

それから、Sくんもかわいそうだということをふみに言ってみたら、ふみ、どうしても納得いかない、暴れまくってるSくんは、なにがかわいそうなのか、と。

Sくん、自分が自分をコントロールができないから、だから暴れる、だからみんなから孤立される、だからもっと暴れる、悪循環。
Sくんも、苦しんでるはず。

しばらく黙ったふみは「Sくんのお母さんは何をしてんの?専門のところに連れていって診てもらえばいいのに、というか、学校の相談室に行けばいいのに」

「でもふみ、やっぱり変に体力に自信を持たないほうがいいよ、危ない目に合うから、MくんはSくんと全然仲がだいじょうぶでしょう?」
「Mくんは温厚な性格だもん」
小柄なMくん、温厚であり、それは一種自己を守る力でもありますね。

「それよりさ、Nくん、ちょっとかわいそうじゃないかぁ?」とふみ。
「どうして?」、Nくんは、ちょっとハンデイキャップ持ちな子です。
「なんかさ、先生たちさ、Nくんを、なんでも一番簡単なことで済ませようと、Nくんも頑張ればできると全然思ってないみたい」
「例えば?」
「鼓笛隊だって、Nくんに、カスタネットを用意したんだよ、ひどくない?ほかのこともいつもそう、バカにしてるまで行かないけど、なんか面倒くさそうにしてるのいつも、どうかなって、ぼくだけじゃないよ、Uくんもそう感じた」
「で、ふみはまた先生に言ったの?」
「ううん、言ってない」
「へぇ〜、どうして?」
「Nくんはどう感じたのか、つまりNくんの心境がわからないから」とふみが。