夏風邪

火曜日の夜、眠っているふみが、急にムズムズしたので、おでこに手を当てたら、熱い。体温を計ったら、38.4℃もありました。


氷枕をさせて、熱冷まシートを貼ってあげて、風邪かなあ…と思ったりしている時、ふみは戻してしまいました。


ふみの嘔吐をみるのは、これで何回目なんでしょう。

ノロウイルスの時もありましたね。あれはクリスマスイブのことでした。
慶応病院の救急で診てもらって、同じ病院の薬局でお薬を待っている時、いつも騒がしい病院は休日のため、ガランとして、寂しさが漂っていたことを思い出します。


「♪春の、うららの、隅田川〜」
ふみが小さい声でこの歌を正確に歌っていたのは、隅田川の屋形船の上のことでした。

大勢の知人がお酒を飲んで、カラオケを楽しんで、天ぷらを食べて、談笑している中、ふみと私は窓を開けて、岸の風景を眺めていました。
よその屋形船も、赤い提灯を揺らせて通り過ぎます。
そのたびに、ふみと手を振り、赤い屋根に立ってるお兄さんも手を振り返してくれます。


お台場あたりで、船はしばらく停まっていました。


ふみも甲板に出て、潮風に吹かれながら、知人たちにもなついて、冷たい小雨が降ってきたというのに、なかなか中に入ろうとしません。


雨風で船はだんだん揺れ始めて、寒さでふみの手も冷たくなってきました。


やっと中に入って来て、ふみの顔色は見る見る青白くなってきたのです。抱き上げたら、もう頭を私の肩にもたれて、目をつぶって眠ってるようになりました。


まもなく、ふみは吐いた。
私は肩から浴びられ、薄めのセーターに、スカートに、ストッキングに…。


知人の手伝いで、やっとなんとかなって、眠ってるふみを抱っこして、どうやって帰るんでしょう、と途方にくれていた時、知人がタクシーで帰ろうと言ってくれたのです。
車内に乗り込んでから、タクシーという手段すら頭に浮かばなかったとは、私って、よほど緊張したのかなってわかりました。

嘔吐でうちの絨毯も捨てて、フロリングのままになっています。



しかしふみまた嘔吐したね。子供はよく吐いたりすると聞きますけど、やっぱり困りますね。


急いでベッドのシーツを替えたりします。
もう、吐くのは勘弁してぇ〜。

(「ふみは、勘弁しましぇん」と答えるのです)。



翌日、朝一番でふみを連れて小児科に行きます。
真夏日、体調の思わしくないふみを歩かせて行くのはちょっと酷ですし、でもまさかもう14キロになったふみを抱っこしてあの坂道を10分近くも歩くのも、私には厳し過ぎます。


自転車を押して行こうと決めました。
自転車は、子供を前に乗せられる専用の頑丈なものですが、これまで私は乗ることはもちろん、押したこともないのです。

こうなると仕方がないですから、ふみをその自転車に座らせました。



思ったより設計が合理的で便利で使いやすくて、調子がのってまいりまして、
「ふみ、ママだって乗れるよ〜出発!」


誰もいない路地と見て、私は初めてふみを載せて自転車を走らせました。

「わ〜、はやいはやい。便利。ふみ、気持ちいいね」
「うん」

あれっ?ふみの声はちょっと元気ないじゃない?
そっか(+_+)、ふみはまだヤマイから上がってないですね。
そうなると、この自転車の行き先も、遠足の目的地ではなく、病院だね。


そう気づくと、自転車から降りました。



「先生、だいじょうぶですか?」
「だいじょうぶですよ。普通の夏風邪みたいですね」
「吐いたりしたのは…」
「この子、体調が悪く時は吐く習慣というか、くせがあるんじゃないですか?そういうお子さん結構いるんですよ。人はそれぞれですから」
「先生、これをみて、」私はふみの手首のとろこの赤い出来物を先生にみせて
「これは、手足口病じゃないかしら」


「これ?蚊か何かに刺されたんじゃないですか?」

そっか…。


鼻水のシロップと整腸剤を頂き、うちに帰って、ふみは、何も食べたくないと、昼寝をしました。


ニ時間後目覚めて「お腹空いた」とふみはいう。
「ふみ、なにを食べたい?言って」
(買い物に行ってないから、あまり派手な注文はなさらないでくださいな)

「ごはん、おみそしる、たまご、なっとう」

「かしこまりぃ。」
これらは全部冷蔵庫にあるものなんだ。


食欲でてきたのは何よりだ。



今日は旧暦の6月15日、よく晴れている夜空は、まるで大きい鏡のように、ピカピカしている。

この満月も、この澄んだ夜空も、同じく見えますでしょうか?
例えば、メキシコとか。