母と子

今日の夕方、ヨガ教室にいる時、外は急な雷雨で賑わっていました。
大雨の中、着替えをせず傘をさして帰宅の道へ。頭の真上で稲妻が、あたりを真っ白に照らし、その後響くはずの雷鳴との少しの間が、耐えられないほど、おっかないのです。

玄関を開けた途端、「ママ〜」とふみは叫んで笑顔で飛んできました。けど開いた両手が急に止まり、困惑したように私をみる。
「どうしたのふみ?」
「ママ。ママはこのまま帰って来たの?」とふみは指で私の服をちょんちょんした。

ちょっとびっくりしました。

簡単な灰色Tシャツ、短パンに近いズボンーーヨガの時いつもこの動きやすい格好。確かに普段はこんな格好で外にはでないけど、しかしふみはこんなに私の服装などをチェックしてるとは…。

「雨だから。じゃないとママはこんな格好で帰らないもんね」
「この格好じゃね〜」とふみは私の口調をまねしているようだ。

密かに冷や汗を拭く。


ふみが櫛で遊んでる。
「チャカチャカチャカ」と言いながらあっちこっちをクシの歯でこすってる、なんのつもりでしょうね。


ふみ、それは髪をやるものだよ、ママの大事大事だよ。

それを聞いてふみは近付いて、私の髪をやり始めた。
「チャカチャカチャカチャカ、はい、やりました。ここは…ちょっきんちょっきん」、クシが行き詰まるところは、ふみは全部切ってしまうつもりなんだ。

「え〜、ちょっきんちょっきんしちゃうの?ママもふみみたいな髪がいいの?」
「うん、ちょっきんちょっきんするの、カチャカチャ…」
ずいぶん無謀な美容師ですこと。


ふみに髪を任せて、私はゆったりと目を閉じた。
そうしたら目の前に、小さい女の子がいた。
長い黒髪の女の子は椅子の上にひざまずいて、目を閉じているお母さんの髪を大事そうに触れ、「あ、お母さん、ここも一本あったよ」、女の子はそう言ってそっと銀色に光るお母さんの髪を抜いた。「お母さん、痛い?」
「ううん、痛くはないよ。ありがとう。でも、お母さんはもう歳だわ、ついこの間白髪を抜いてくれたばかりなのにね、また生えてきたわね」、お母さんは独り言のように手の白髪を見つめる。


遠い昔の母と私でした。