たんぽぽ組のこどもたち

連日の秋晴れ、日差しはキラキラですけど、空気がカラっとして、さわやかです。
夜中はもうクーラーを付けずに眠れるようになり、実にラクなことです。
今日なんかは、夕方からの涼風で、ちょっと肌寒いぐらいです。
今回の涼しさは本物です、もう夏に戻れないという感じな空気と空です。しかし日が暮れるのはますます早くなりましたね。


ふみは今日も6時ちょっとで目覚めたのです。
二、三日前から、登園道でふみに言い聞かせています
「水曜日ママは保育参加と言って、参観じゃなくて、参加、つまりふみちゃんと一緒に保育園に行って、ママ帰らないで、ふみとお友達と一緒に遊ぶの」。
ふみは多少戸惑いがあるようですけど、特に何か言葉もなかったのです。


今日は私の保育参加の日、先月申し込んだんです。一緒に参加するのはNちゃんのママです。一日に二人しか参加できないのです。
申し込みの時、連絡帳に、「本当なら、透明人間になって、ふみの保育園の生活を見てみたいです」と書きました。ふみに気づかれないようにふみの傍で、ふみがお友達とどんなふうにかかわってるのかを見てみたいのですから。


ふみの2歳児組の部屋、今日は16人だけ登園してたんです。

16人の子供が、お互いかかわりがあるような無いような感じで遊んでいます。
顔が横向きで床にうつ伏せになってる子(タイトル「大地の音を拝聴する」)、おもちゃの線路を繋いで電車を走らせる子、人形さんの背中をとんとんして寝かしてる子、積み木で駐車場を作ってる子、…、 バラバラ。
走り回って、
「貸してぇ」
「イヤだよ」
「貸してよ」
「イヤ、あっち行って、×ちゃんキライ、あっち行ってぇ!」
玩具を奪い合いのけんかの激しい声の中、すぐ近く椅子に座ってお絵描きしてる子もいる、真剣な表情、騒ぎを全く気にしない、まるで静寂な山中で写生してるのよう。

圧倒されました。
子供の世界と大人の世界って、なにが違う、なにが同じかなと感慨深いものでした。


近くで、顔見知りのU君とK君が遊んでる。
私は玩具箱からプラスチックの木を取り出して
「ね、K君、これなに?」
「タイヤ」
「タイヤ?!」
K君は嬉しそうな顔で「タイヤタイヤ」とふさげてる。

いつもクールな無口のU君がこの時口を開いた
「違う。葉っぱ」
「タイヤ、ははは、タイヤ」とK君また言ってる。
U君はうるさいと思ったんでしょうか、手にしてるおもちゃを投げ出した。K君すぐ黙った。


お絵描きしてる子の机に行って見た、するとD君が声かけてきて
「ね、お弁当を描いて」
「いいわよ。クレヨンちょうだい。…、えっと、D君はどんなお弁当が好き?」
「焼そば」
「やきそば?へぇ〜でもせっかくだから、お弁当らしいお弁当を描いてあげようか。丸いのがいい?四角いのがいい?」
「丸いの丸いの」
「わかった。半分はごはんね、梅干し好き?はい、梅干し」(えらい、梅干しが好きなんだ)
「少しゴマもまぶしてあげようか。ここは…、なにとわかる?」
「ウインナソーセージ!」
「あたりぃ!ソーセージ。唐揚げも二個入れるね、あとなにが好き?」
「やしゃい!ほーれんそう」(まっ、なんで偉い子!)


H君も口はさんで来て
「ね、ね、亀さん描いて」
「かしこまりぃーはい、できあがり」
絵が好きだけど下手な私だが、2歳児から見れば画伯レベルでしょうね、気持ちいい。
「ねぇ、亀さんいなくなったよ」
H君の指先を見てみると、亀の上に、さらに緑のクレヨンで塗されてる。
「本当だ。亀さんは水の中にもぐったかな」
「水の中に行ったよ、さっき」D君は真剣な顔で言う。


先生に、来月の運動会で使う道具に絵を描くのを頼まれた。
運動会はいつも手作りなんだ。
渡されたいろんな色のマジックペンで、半分に切られてるベットボトルの表面に絵を描く。
Mちゃんが近くにいたから
「Mちゃん、Mちゃんを描いてあげるね、かわいいく」
「うん!」
真ん丸のぱっちりした目、長い睫毛の微笑んでる女の子が出来上がり。
「Mちゃんにそっくりでしょう?」
「うん!」と、細長い目のMちゃんが少し照れ笑いした。前髪を揃えてるのは、似てたけど。



おやつの時間、りんご一切れと牛乳。
隣に座ってるNちゃんのママが、リンゴをおいしそうに食べてるNちゃんを見て、「え?この子リンゴ食べんの?!うちでは全然食べないのに」と声を上げた。



おやつのあとは、庭で遊ぶ時間。
もとは小学校だった仮園舎は、広々の運動場がお庭なの。
子供たちは、ボール投げしたり、フラフープの中に入って、「シュシュポポ」と言って電車に乗ってる気分で走ったり、三輪車に乗ったりしてた。
フランス人のJ君は静かに一人お部屋で遊んでる。両手に大きいミトンを付けておもちゃのお鍋を運んだりしてる、きっと普段のJ君ママがそういうふうにお料理するのでしょう、オープンからフランスパンを取り出したりとか。



三輪車とスクーター(本格的のではなく、幼児用)が衝突、乗ってる子が泣き声の競争をしてる。
三輪車(幼児用!)に乗ってるS先生が駆けつけて
「ピピポポピボピ、あ、通じた、もしもし、交通事故発生、交通事故発生、救急車お願いします。はい、一台で間に合います。は〜い、救急車が来るから、もうだいじょうぶだよ」。
衝突した子は、目をキラキラして、泣くの忘れた。

「水遊びしたい人〜〜、今日は色水になるよ〜、朝顔を絞るから。水遊びしたい人〜、なんだ、今日水遊びが人気ないな」と、手に持ってるボールをダンダンダンと叩きながら登場してきたのはN先生なんだ。
ボールの中の朝顔の搾り液らしき紫っぽい水に誘われ、2、3人の子が三輪車を放棄して走ってついていった。


「あ〜〜〜」と、Wちゃんが急に壁に靠れて泣いた。
「どうしたのWちゃん」とS先生また三輪車乗って駆け付けた。
「あ〜〜ドーナツがいい、あ〜」
?!
「そう〜、ドーナツがいいの、ドーナツおいしいもんね」
「うん!」Wちゃんは自分の意見が賛同してもらったと見て、泣きやんだ。

途端、連られてMちゃんが泣き出して「パパ〜パァパァ〜、パパがいいの!」
「パパ?そっか、Mちゃんはパパが好きだもんね」
「うん!」


はしっこで物売りごっこをして遊んでる子たちがまたトラブル、どうも誰かが誰かの場所を取ったみたい。
今度はS先生の三輪車はタクシーに変身、「タクシー乗りませんか」とS先生が号泣のM君に声をかける、S先生のタクシーに乗ったら(おんぶの形)、M君はすぐ機嫌直った。


全然暑くない天気なのに、こどもたち、あっという間に汗びしょ。
順番にシャワーを浴びてから、今度は昼ご飯の時間。


4人の先生たちは、もう誰かどんなものを好むか苦手か、はっきりとわかっているみたい。
「F君、お野菜少し食べるようになったもんね、先生すこしだけ入れてあげるから、今日も頑張って食べようね」
F君はお椀の中の入れてくれた小さいインゲンをフォークでさして目の前に持って来て、フォークを回しながらインゲンを充分見て、また鼻に近づけてにおいをかいで、やっぱり食べるのやめた。
テキパキとおかず・ご飯・スープをそれぞれ配ってる先生がそれを見逃さなかった
「頑張って見ようよF君、じゃ、次の食事の時頑張ろうね」


二列のテーブルの前に座ってる子供たちは、黙々と食べる子もいれば、何か騒いでる子もたくさんいる
「おまえぽいぽい」
「おまえぽいぽい」
と、壊れたレコードのようにこの言葉を順番に繰り返しに言ってるのは、H君とK君。ずっとこのやりとりしてる。
「H君もK君も、ご飯は静かに食べようね」と先生の声で二人やっとご飯に集中し始めた。


「先生、お代り」
「先生〜お茶もっと」
「先生おさかなが落ちたよ、Mちゃんのおさかな」
「先生、S君鼻血出てるよ」



ふみと言うと、今日はずっと私にべったりでした。お友達との遊ぶ場面を見たかったのに。


「ママが来てるから、ふみ君は嬉しかったのよ、いつもと違って、いつもよりおとなしい。ははは…今日はふみ君にとって特別な一日でしたね」とS先生が。
そうね、ママにとっても特別な一日でしたよ。