軍楽隊
「ママ抱っこ!」
「無理よ、金曜日だから、こんな大きい荷物持ってるでしょう」
ふみは土日は保育園が休みだから、金曜日のお迎えは、保育園のシーツや靴など、荷物が大きい。金曜日の夕方は雨降らないようにいつも祈るばかり。というわけで、当然ふみの抱っこのおねだりは応じることができない。
でも今日のふみは諦めない。
「ママ、チュー」
「はい、ふみちゃんのホッペにチュー」と下を向いて言葉だけ言った。
「ママ、届かないよと言って」
「はい。あ〜、ふみちゃんのホッペにチューしたいな〜、届かないな」
「ママ、抱っこしたら届くよ」
!…(^o^)/ 立ち止まって笑ってしまった。
ふみ、おもしろいな(^^♪
笑ってる私たちを見て、すれ違った年配のシスターも笑った。大笑いではなく、慈しみのある素敵な笑みだった。
「あ、教会の人」とふみが。
へぇ〜よくわかったね。教会に行った時、見て覚えたのかしら。
元自衛隊の知人から軍楽隊のコンサートのチケットを頂き、三人で武道館へ出かけた。
私は4、5年前もこの方から同じチケットをもらって一人で行ったことがある。ふみはもちろん、パパも初めて。
武道館だからタクシーで行った。道はすごく混んでて、やっと着いた時はもう6時を少し過ぎていた。
遠くから、赤く光る警棒を手にしたたくさんの自衛官が警備をしているのが見えた。
近づいたら、タクシーの運転手が「こりゃタクシーは入れないわ」と言った途端、もう止められた。
降りてすぐタクシーはUターンさせられ、私たちにはチケットを提出するよう求められた。
「紫色のですね、あちらからどうぞ」
私たちが持っていた紫のチケットは招待券だった。
なんかものものしい雰囲気で、ちょっと緊張した。
ボディチェックと荷物チェックが行われ、陸軍や空軍海軍の服装の人が出入りしてた。
そのせいか、やっと会場に入れた時、ふみは「帰る」と小さい声でいいだした。
帰るって、今、入ったばかりじゃないか。頼むよ〜
女子(陸軍)独唱「なごり雪」
在日米軍陸軍軍楽隊。
さすがアメリカ人、リラックスした、ユーモア溢れる演出。武道館ではなく、30年代のジャズクラブのような。
防衛大学校儀仗隊。
若き学生さんたちは持っている鉄砲を華麗に振り回してる。盛大な拍手を得た。
急に一斉に発砲(もちろん音と煙だけだが)びっくりした。思わず声を出してしまった。
ふみは泣くかと思ったら、意外と平静な顔してた。と、安心した矢先、「帰る、帰るのぉ!」。今回は意志が固いようだ。
これからの演目には、海・陸・空の自衛太鼓の「大合同合奏」があるのだが、ふみは確実ダメだと思って、退場した。
外に止まってる自衛隊の窓のない戦車のような車を見て、ふみは「みたことない車だね」とうれしそう。
帰りのタクシーに乗ったら、運転手さんが「中で何やってるんですか?自衛隊の何か?」
やっぱり雰囲気はいつもと違うからね。
今日のふみのおやつは、新宿若葉のいつも行列の鯛焼き屋さんにした。
「鯛焼のしっぽにはいつもあんこがありますやうに」と落語評論家安藤鶴夫が描いたお皿。
うん、ここの鯛焼きは、いつもしっぽまであんこがたっぷり入ってる。だからいつもしっぽから食べるんだ。おいしい。