黒酢を…

昨日は15度で、桜が咲く時の気温だそうだ。
確かに暖かった。体もなんとなくのびのびして、過ごしやすかった。

今日は大寒大寒らしく気温が下がり、おまけに一日曇って、余計に寒々。
湿度が低く、インフルエンザが流行るわけだ。



生まれ故郷は冬が寒く、それに空気が非常に乾燥してる。


小学校の時、冬になると、特に風邪などが流行ると、加湿器代わりに、いつも教室の暖炉の上にヤカンが置かれていた。
ヤカンから細い湯気が上がると共に、すっぱい匂いも一緒に漂う。たまにむせるほど。
黒酢なんだ。
床に、病院用の消毒液を薄めて撒いたりもしますが、黒酢を沸かすのは、よくやっていた。

消毒液だと、先生が、親が病院に勤めている子に頼んで持って来てもらわないないけど、黒酢はどんな家庭でもある普通の調味料だから、気軽に使われる。

あのむせるほどの匂いも、慣れればたいしたことがない。酢の消毒作用のおかげで、あんな極寒の中で、私たちは逞しく生きてきたのかもしれない。


今と違って、冬はよく雪が降っていた。
“早自習”と呼ばれて、一限目の前の時間から、学校が始まるんだ。
それは7:00。つまり私たち7:00までにはもう学校に着いて、“早自習”を出なきゃいけないのだ。
小学校は徒歩30分のところにあった。その“早自習”に間に合うために、遅くても6:30にうちから出る。冬の朝、なかなか光が迎えない。


電力不足のために、街灯は少ない、満天の星を仰ぎながら、友達と饅頭(餡子がない主食用)をかじって学校へ向かう。
寒い。綿の入ってる靴の中の指は段々痛くなってくる。


自分の当番の日なら、もっと早く行かなきゃならない。
みんなが来る前に、暖炉を点け、掃除をするのが当番の任務だ。
暖炉を点けるのは、新聞紙などの紙・枝・石炭という下から上の順番。
石炭が完全に燃えるまで煙はでるが、石炭が燃えると、火は安定する。
それになぜか石炭にちょっと水をかけるとよく燃えるんだ。その水の量と、かけるタイミングは、小学生の私たちも上手に身に付けてた。



そして、みんながぞろぞろ入ってきた教室は、もう前方と後方の二つの暖炉が暖かく燃え、煙は順調に煙突から外へ、レンガの床はきれいに掃除され、暖炉の上のヤカンは微かな音を立て、黒酢の匂いが漂う。


ベルが鳴り、“早実習”が始まる。
みんなそれぞれの大声の朗読が窓の隙間から遠くまで響いて行く。
「月は故郷の方が明るい…」