ペロペロキャンディ
春分の日の今朝の空。
まもなく、激しい雨が降って来た。
風も強くて。
ふみとうちで遊んでた。
11時頃に、雨が上がった。
ふみと出かけた。浅草へ。
昨日食べたあのカリントウを売っているお店に行こうと。
「亀十」という和菓子の老舗。
地下鉄に乗った。
しばらく乗っていたら、隣に座っているご婦人がふみに声を掛けてきた。
「ぼくちゃんいくつ?何歳?」
「3しゃい」と、ふみは三本の指を立てて見せる。
「そう〜おりこうだね。どこに行くの?」
「あしゃくしゃ」
「…、あ、浅草ね?いいわね、観音さまのお参り?」
「うん、お参り」
「いいわね〜、おばあちゃんの年になるとね、もうお墓参りしかないのよ、今日もね…」
ふみずっと優しそうな微笑みで、ご婦人の話を一々大きく頷いて聞いていた。
そういうふみあまりに見たことがなかったな。
銀座で、ご婦人降りることになった。
「これからどこに行くの?」とふみは急いで聞く。
「ここで乗り換えてお寺に行くのよ」
ご婦人は慌てて降りた。持っている紙袋に菊の花束が見えた。
浅草に着いた。
ただでさえ観光客で混雑の浅草は、三連休の初日ということで、より以上ゴジャゴジャしてる。
雷門向かいの「亀十」に着いた。
ここは巨大カリントウより、どら焼きが有名らしい。
食べたけど、う〜ん、どうでしょうね〜、生地は確かにふわふわだが、餡子も含めてなんだか水っぽい感じする。
どら焼きなら、私の一番は、「玉屋」のブランデーどら焼き。
しっとりしてブランデーもたっぷりしみこんで香りが効いてて(わたしはそのかすかのアルコールで顔が赤くなって“酔った”ことがあるんだけどね)。
靴の底の大きさと形の薄いかりんとうを買って、亀十から出てきた。
帰ろうかな、ふみの昼食時間と昼寝時間を気にする私。
ふみはというと、「観音様にお参りに行きたい」と意志のかたそうなふみ。
まあ、せっかくここまで来て、お参りも行かずというのは、おそれが多いから、行きましょう。
ふみは仲見世通りの人混みの中で、少しつまらなさそうに歩いてた。
晴れて来て、日差しがキラキラ。
ふみもちゃんと両手を合わせて観音様にお参りして、
「ママ、観音様はふみちゃんを見たら何言う?」
「あら、おりこうだね、お参りに来たのね」(何で観音様が女口調?)、ふみは満足した。
さて、昼食は、地下鉄に乗って帰って来てから食べようか、それともこの浅草で食べようか、時間的見れば、ふみは帰りの地下鉄の中で眠ってしまう可能性が高いから、ここで食べたほうが無難だわ。
観光地の昼時間の飲食店、どれも行列が外まで。
迷っている時、ふみは目の前の中華屋さんに指さし、
「ここでいい!このメンメン食べるぅ」
五目焼きそばだった。
ええ〜ちょっと〜 あまり道端の中華屋さんが好きじゃないんだけどな。
入った。
1階の満席で、2階まで案内された。
びっしりと並んでる丸いテーブルはすでに満員、奥の座席に座った。
たばこの匂いが来るわ、大声の騒ぐ声が聞こえるわ、
「ふみ、帰ろうか」
「イヤだよ、ここで食べる」
「帰ろうよ、まだ間に合うから」
「なんで?」
「落ち着かないし、ほら、たばこの匂い、イヤよ」
「タバコ?」
という時、隣のテーブルに座ってる男の人が、「場所かわって」と小声で同じテーブルの少年に言った。男の人はタバコをくわえてる。その少年は私と離れてるところで座ってる。
あらイヤだ、聞こえたのかしら。わたし、別にそういう意味じゃなくて…
隣のテーブルを見てみると、40前後の男性二人と、年齢バラバラに見えるが、全部十代の少年4人。全部関西弁。
少年らはトレーナを着て、それぞれ壁に寄り掛かって、各自の携帯やゲーム機をいじってる、しゃべろうとする子は一人だっていない。
大人の男性二人はたまに言葉を交わす。
何なんだろうね、野球部の合宿とか?卒部旅行とか?
それにしても暗いね。今の若い人って、こういう感じが普通かな。
笑顔もなく、言葉もなく、指だけ活発過ぎるぐらいに鍵盤を操作する。
6人ともチャーハンを頼んだ。
チャハンを、少年らまた無表情にそれを口に運ぶだけ。
先生(かコーチ)らしき二人は最後に食べ終わって、6人それぞれ自分のお金を出して、出て行った。
今の子がこうなのかね、なんかさびしいね。
ふみはおいしそうに五目焼きそばを食べた(五目は一切食べない、焼そばだけだけど)。
会計の時、ふみは大声でお店の方に、「ごちそうしゃまでした」と言って、お店の方が喜んだみたいで、ぺろぺろキャンディをふみにくれた。
ふみの初めてのペロペロキャンディだね。
大事そうに持って、「ママ、食べていい?いつ食べられる?」との連発。
なるべく食べて欲しくないから、いろいろ言ってごまかした。
地下鉄に乗ってまもなく、ふみはウトウトし始めた。
抱っこしたらすぐ眠った。
覚悟したとは言え、やっぱりあちゃ〜って思った。
途中乗り換えして、駅に着いて、ホームから改札口までの階段を熟睡のふみを抱っこして、なんとか登り切ったところ、ふみ目覚めた。
両足が着地した途端、ふみは自分の手の平をしばらく凝視した。
それから自分の足の周りを見て、グルグル回ってなにかを探す様子で、
だんだん焦って来て、「ない、ない、どこ?」と泣きそう。
ペロペロキャンディのこと。
地下鉄で眠ってしまったふみは、それまで握りしめってたペロペロキャンディを、手がゆるくなり、おちそうになった。
捨てたかったが、ごみ箱が見当たらないため、カバンに入れた。
ふみに渡した。
笑顔になった。
それからずっと離さなかった。
午後、また出かけて、ラブちゃんも会いに行った。
このシーンのあとは、ふみラブちゃんの首を何回も抱きしめてた。