“愛”

朝から曇り+強風、幸い気温は17℃だから、まだ春らしい。


日曜朝は恒例の朝市へ。
スーパーの中、ふみは約束通りに陳列している商品を触ったりしていないから、ご褒美にふみの大好きなレモンのお菓子を買った。

レジに行こうと動き出したら、ふみは小さく「痛いっ」と言った。

ふみは、また指を買い物籠の隙間に突っ込んでいて、急に籠を移動したから指が取れなかったのだ。


これで何回目かな。
買い物籠、電車のドア、エレベーターのドア、デパートのワゴンの穴。

このことで私は何回も道理を説明し、何回も怒ってやった。
けど、どうもふみは懲りない。


レジに行って、会計してる間、ふみは再び指を籠の隙間に。
!!

怒りを抑えるのに精一杯だった。

無言無表情で買った物を袋に入れ、ふみの手を繋いで外に出た。
「ふみ、指を突っ込んだらどんなに危ないかママ何回ぐらい言った?ふみはもうやらないと何回ぐらい約束してくれた?指が折れたほうがいいのね?わかった。うちに帰ろう、ドアのところに指を入れて、ママが折ってやるから、これで満足でしょう」
ふみの手を繋いで歩きだす。


ふみは泣きだした。
「イヤだイヤだ、こわいこわい、指折らないで…」
「静かにしなさい、外で泣くなんて、恥ずかしくないのか、ママが恥ずかしいよ。早く歩いて、うちに着いたら指をちゃんと折ってあげるから」

ふみは声を出して泣くのやめ、しくしくしながら、
「もう指突っ込まない、折らないで、こわいよ」
「ダメ。こんなに言っているのに聞かないなら、ふみにはもう痛みで覚えてもらうしかないから」


私の怒りは本当に頂点になり、黙って数を数えて爆発しないようひたすら歩く。


うちに着いて、ドアを完全に閉めないで、少しだけ開けて、
わたしはできるだけ落ち着いた声で、
「ほら早く、指を入れるの」
「イヤだイヤだ、こわいよ」
「むずむず言わない、指入れるの」
ふみは泣きだして、鼻水や涙で顔がぐじゃぐじゃ。


ティッシュで拭いてあげながら、なんだか急に力が抜けた感じがした。
イカリって、体に毒ね。


しかしふみが生まれる前に、わたしはこんなに誰かに対してここまで怒ったりしたことあるのかね。
記憶にないほどめったにないと思う。

……


こんなにも理不尽で、こんなにも懲りない人間って、こんなに今まで味わったことのない種類の怒りで、苦しくなった。


もううちから早く出よう、この空間、この二人限りの空間から早く出なきゃ、正直自分をどれぐらい抑えるのは自信がないから。


ふみは多少嗚咽しながら、私の手をしっかりと握りしめて、外に出た。


坂道まで歩くと、ふみはだいぶ忘れたみたいで、いつも通りはしゃいだりして、


この“記憶喪失”は一種の子供の特有の能力だね。
憎らしい能力であり、羨ましい能力でもあるわ。


「ママ、にゃんこ、にゃんこだよ、ふみが見つけたよ」

どれどれ?本当だ。
思わずシャッターを押すわたし。

二匹もいた。この黒のは、前に従兄が飼ってたのにそっくり




「ふみ、こっちを見て、きれいね、香りもいいよ」

ふみは素直に鼻を伸ばしてお花を香りをかいて、「本当だ」と喜んでる。


こっちも、こっちも、




こちらは、ご夫婦揃いで、これはどうも〜



空は明るいのか暗いのか、わからないや。



橋を渡って、教会へ。
なぜか教会へ。



強風で飛べされそうだわ。ふみは、
「風しゃん、あっち行きなさ〜い」と叫んで聖堂へ走って入った。



聖堂の中は、清らかさと穏やかな空気のみ流れている。



レースを被っている清潔な女性信徒。




ふみも腰を降ろして、賛美歌を取り出して“読んで”いる。



鐘の後、神父さんが出てきて、マイクの前に立ってからの第一声は、
「みなさま、お互いにご挨拶をなさいましたか?おはようございます」

するとみなさまは、神父さんに向かって「おはようございます」、それから自分の周りの人に向かって、「おはようございます、おはようございます」
一瞬、世の中が、笑顔と優しい声でいっぱいになった。

わたしも振り向いた中年ご夫婦とご挨拶を交わして、また振り向いて後ろの男性と笑顔とご挨拶を交わした。

ふみを見てみると、誰かに向ってではなく、とにかくあっちこっちにおじきをしてる。
そういうふみが愛おしくてたまらなかった。


オルガンの伴奏で賛美歌を合唱し、ふみと出てきた。
歌が終わった途端、ふみは退屈そうになってくるから。
あまりやることないと、また般若心経を唱え始めるんじゃないかと心配で。



風は相変わらず強く、雨はたまにパラパラと落ち、でも、空気は湿潤で暖かい。

「ふみ、もう指をあっちこっちに突っ込んだりしないと、神様に誓った?」
「うん。言った。神様なに言った?」
「ふみ君、ちゃんとそれを守るんだぞ」
「うん」

どうでしょうかね。
信じてあげましょう。
でも、いつでも簡単にこの約束を破るぞぉっていう心の準備もしよう。
子供って、こんなもんだから。(なんか悟ったようですね)




「愛は忍耐強い。
愛は情け深い。ねたまない。
愛は自慢せず、高ぶらない。
礼を失せず、自分の利益を求めず、いらだたず、恨みを抱かない。
不義を喜ばず、真実を喜ぶ。」

聖書での“愛”への説く言葉である。

ずっと昔、ある台湾のドラマを見て、この言葉の賛美歌の中国語版が流れてた。
それ以来、好きな言葉になった。