花冷え
花冷え。冷え過ぎるほど。
昨日の早朝なんかは雪がチラついたそうだ。
今朝、日向にくつろいでるわんこ。
なんか暖かそうで気持ちがよさそうで、ホッとするな。
もう遅刻しそうなのに、やっぱりカメラを取り出さずにはいられないのだった。
わんこは、無礼な私を目を細めに開けて、また閉じた。
「お邪魔しました〜」
保育園の近くで、ベビーカーを押してるMちゃんのパパと会った。
挨拶をして、ベビーカーのMちゃんの弟を顔を覗いてみた。まだ生まれて半年も経たない。
「S君ね、だいぶ大きくなったね。いつもMちゃんから弟の話を聞いてるよ。」
「あそう?ははは、大きくなったでしょう、丸丸と太って。あの、私たち今月いっぱいでアメリカに行くことになったんです。まあ、仕事というか、留学というか。二年間です。子供も一緒に。だからここに通うのはあと少しで…」
「そうですか…」
Mちゃんは、私がふみをお迎えに行く時、よく話かけてくる円い顔のかわいい女の子。
いろいろとしゃべってくれて、最後はよく、「じゃ、玄関まで送ってあげるね」という。
「あのね、Mちゃんがね、弟ができたよ、あと三ヶ月で生まれるの」
「あのね、Mちゃんの弟が生まれたよ、S君というんだよ、まだ抱っこできないの、首まだ柔らかいから」
「あのね、Mちゃんのうちはアメリカに行くの。ここのおうちは狭いから、アメリカ行ったら広いよ」
…
本当にいろいろお話をしてくれる。
アメリカに行く話は、本気にしなかった。
「ふみ、本当にアメリカに行くんだね。Mちゃんが」
「Mちゃんもう来ないの?」
「うん。あとK君も。おうちがちょっと遠くなるから、もうここをやめるんだって。K君は違う保育園に行くんだって」
「ふみちゃんは?ふみちゃんはどこに行く?」
「ふみちゃんはどこへも行かないよ。心配しないで」
「イヤだ、ふみちゃんもどこかに行きたい!」
はぁ?
「ふみ、そうしたらもうお友達と会えないよ。U君もHちゃんも。新しい知らないお友達ばかりになるよ、いいの?」
「いいよ!ふみちゃんもどこかに行きたい!」
まっ、お逞しいですこと(^_-)
別れに全然平気なふみ君と、ちょっと寂しくなるママだった。
従姉が来た。
従姉の旦那さんが会議に出席するために東京に来て、従姉も一緒に来た。
何回か電話をくれたらしいけど、あいにく留守だった。
やっと一回留守電を残してくれて、京王プラザホテルに泊ってると知った。
すぐ電話したが、外出中で、つかまえられなかった。
翌日の午後、ふみを保育園から迎えて、電車で新宿へ行って、西口から京王ホテルへ向かった。
歩きながらふみに従姉と従義兄さんの名前を教え、会ったらちゃんとご挨拶をするのよとふみに告げた。(従義兄さんは日本語がぺらぺら)
ふみはこころよく応じた。
ホテルは、いつも行ってる、土日もやってる郵便局のもう少し先だった。
フロントに従姉の名前を言って部屋に繋いだら、留守だった。
どうも毎日朝早く出て夜遅く帰るらしい。
仕方がなく、持ってきたお茶などの手土産をフロントに預け、ふみと帰ることにした。
「イヤだ、帰らない!もっとここで待つのぉ〜」ふみは怒ってた。
「待ってもしょうがないのよ、夜にならないと帰ってこないから」
「帰ってくるよ、すぐ帰ってくる。もっと待つの!」
しょうがないから、少しいることにした。
ホテルのおトイレに行った。
トイレの中の個室の前でふみに待ってもらった。
「ふみちゃんここで待ってていい?それとも一緒に入る?」
「ふみちゃんここで待つ。…、ママ、ふみちゃん、誰にも取られない?」
「だいじょうぶだいじょうぶ、ママとずっとしゃべってれば、だいじょうぶよ。ずっとしゃべってね」
というわけで、短い間だけど、ふみと扉越しでずっと話してた。
「おりこうだね」とのご婦人の声が聞こえ、ふみを褒めてるみたい。
「ママ、ふみちゃんずっと待ってた?」
「待ってた待ってた、ありがとう、助かったわ」
「ママ、ふみちゃんおりこうだった?」
「とってもおりこうだった、本当に助かったよ」
ふみは満足した。
外に出たら、二、三歩に一回ふみは振り向いた、
「ママ、もう帰って来たんじゃない?」とふみはホテルを仰ぎ見て言う。
“別れ”にだけではなく、“出会い”にも平気なふみだった。
両方苦手なわたしには、叶わないことだわ。
デパートなど寄って帰ってきたら、従姉の留守電があった。
一旦ホテルに戻って、また出かけるようだ。
フロントに預かったものをもらって、お礼の電話だった。
「時々、どうしているかなって、気にかかってたよ…」従姉のゆっくりの喋り方は変わらずだった。
留守電を聞いていて、なんだか目頭が熱くなった。
従姉とは7歳の年の差かな。
勉強熱心な人で、一生懸命勉強した内容を暗記している時の従姉の髪を、私は編んで遊んでました。
一つの髪型が出来上がったら、「見て見て」と鏡を従姉の前に差し出して、
従姉はいつも笑顔で鏡を覗き、嬉しそうに目が丸くなり、けど口は暗記の内容を止めることなかった。
あれは、いつの事かしら。
昨日のような、前世のような。
外で歩いて見かけた、高いところに咲いているきれいなお花を、思わず立ち止まって見上げてしまうわたしに、ふみが、
「ママ、ふみちゃんが登って取ってあげようかぁ?」とさりげなく言う。
ありがとう。お気持ちだけで充分でございます。