おでんの味
やっと春本番になったかんじですね。
朝、洗濯を干す時の温かい日差しに、思わず深呼吸してしまった。
さくらが開花したと発表してから、冷え冷えの日々がずっと続いてたからね。
毎朝、ふみはリュックをしょって登園する。
保育園に近づくと、「ママ、コップ入れた?タオルは?」と確認してくる。
ごめんね、頼りのないママで。
今日は暖かいと思って、登園の時ふみにトレーナ一枚にした。
外にでてしばらく歩くと、ふみは「ジャンバーを着たい」と言い出した。
なによ、いつもコートやジャンバーが嫌いのくせに。
でも、たしかに朝のうちに、特に日蔭だとまだヒンヤリ。
登園道の半分を行ってるところで、ふみは再び「ジャンバーを着たい」と言って、いたずらなのか、本当に着たいのか、とにかく本人が着たいと言うから、仕方がないや。
「ふみ、取りに帰る?」
「うん!」
ふみとまたうちに戻った。まあ、わたしも日傘を忘れたし。
そういえば3月末に、今年始めて日傘が登場した。
うちに戻って、ふみにジャンバーを着せ、わたしは日傘を持って、近道を選んで、急な坂を下ってのコースを選んだ。
本当に急な坂なんだ。
ふみと一緒に下って、目の前に小さな公園が現れる。
「さくらだ!」とふみは声をあげた「ママ、さくらだよ!もう…、さくらはもう、カンペキだね」
「完璧?!そうか、完璧だね。」
満開を完璧だと表現するふみに感心してしまった。
「ママ、ふみちゃん、さくら何回見た?ふみちゃんは、1、2、3、4、7回見たよ」
「7回?それはないね。さくら年に一回しか見れないというか、咲かないから、ふみちゃんは3回しか見てないはず」
「ふみちゃんいっぱい見たよ」
「それは、一回の花の時期に何回も見たという話でしょう」あ〜難しい、説明が。いいよ、ふみは7回見たことにして。
「でもなんで1234の後ろは7になっちゃた?」
保育園に着き、ふみの第一声は「ジャンパーを脱ぎたい」だった。
バイバイをして出てきたら、あらま、遅刻しそうな時間になったわ。
走ろう!
でも、さくらも見たい。
走って、立ち止まって、シャッターを押して、また走って。
ついこの前、ヨガ教室の一人が、「枝垂れ桜は、なんか幽霊がいそうだね」と言ってた。
なるほど。ゆらゆらしてるしね、ソメヨシノより幽霊っぽいわ確かに。
美しいね。正々堂々で、高貴で、鮮やかだが、媚てない。気品のあるお花ね、バラは。
ふみに迎えに行って、ふみの髪がどうも埃っぽく見える。
連絡ノートを見ると、今日はさくらを見にみんなで公園に。
ふみは地面にコロンとなって、どうしたの?と聞いたら、
「少しこうしているの」と答えるふみだった。
「へぇ〜〜地面に仰向きに寝転がって、何を見たの、ふみ?」と聞いたら、
ふみは、
「おつきさまを見つけたよ。半分このおつきさま」
「昼間なのに?あ、本当だ、いるね、半分のお月さま」
青空に、淡い白色の月が真上にあった。
「ふみ、何で月は半分だろうね」
「ふみちゃんが半分を食べたから」
「あら〜おつきさまを食べたの?何味した?おいしかった?」
「おいしいよ、おでんの味」
「おでん?なんかロマンチックじゃないな」
ダレンちゃんが小屋にいた。
ダレンちゃんはとても賢いんだ、どこかで訓練されたそうだから、乱暴なところ全然なくて。
今日はパパが少し遅くなると言うから、ふみと駅のほうの土手に、プチお花見に行くことにした。
「ふみ、そのシートをめくらないで、人の場所取りのだから」
「ふみちゃんあの枝がほしいんだもん」
ふみはやはり、花より電車。土手の下の線路を走る何本かの電車に大いに喜ぶ。
今度は花よりスープか。
駅のスープ屋さん、相変わらず混んでた。
狭いカウンター席しかあいてなくて、しかたなくそこに座ろうかという時、
「あの、僕らもう終わるから、ここに座ったら?」と後ろから、男性の声が。
口髭の整えてる初老の方だった。座ってるテーブル席を片づけ始めた。
「え?いいんですか?」
「いいですよ」
「ありがとうございます。ふみもお礼を言ってね」
「ありがとうごじゃいまし」
「いいえ」ひげの紳士がほほ笑んでふみに、「君があまりにもかわいいからよ。スープ好き?」
「うん」
「おりこうだね」
褒められたふみは、すました顔を見せた。
ラッキー。ゆったりした席でふみはスープをかけたゴマご飯をパクパク食べてた。
わたしはフランスパン。
本当に私はパンが大好きね。米もおいしいが、やはり小麦粉が好き!
主食を米からパンに変えても全然いいぐらい。
米は、毎回お椀の7、8分目ぐらいよそって、なのに食べても食べても減らないかんじ。なんなんでしょうね。
パンなら、自分を止めないといくらでも食べられるかんじ。なんなんでしょうね。
スープとフランスパンを、パパへのお土産に買って出てきた。
暮れたら、またひんやりになってきた。