程々

朝から暖かい。陽ざしもたっぷり。もうふみに日焼け止めを塗ってあげてる。


朝日をしょって、ふみと保育園に着いた。


お部屋に入った途端、ふみは入口に立ってるHちゃんに、
「ふみちゃん今日もカバンをしょって来たよ、ふみちゃんもうお兄ちゃんだよ」
いつもニコニコのHちゃんは今日はなぜか不機嫌なようすで、「Hちゃんはもうお姉ちゃんだよ」
「ふみちゃんがお兄ちゃん」
「Hちゃんはお姉ちゃん!」
「ふみちゃんが…」
「Hちゃんが…」
「ふみちゃんが!」

Hちゃんが急に「バカ!」と言って、
ふみは「バカを言う人がバカ」と素早く言い返した。


そばで見ていて、どっちも正しいんだから、こんなやりとり(言い争い?)なんで続いてるの?いつまで続くの?と思って(=_=)




小さい頃、大工さんから、窓ガラスの隙間を塗りつぶす時に使うパテをもらって、粘土代りに遊ぶのが流行ってた。もちろんそう簡単に入手できるものではないけど。

わたしもパテが好きな一人。
匂いまで大好き。
簡単にもらえないからこそ、憧れが強くなり、妄想まで走る。

近所に、程々という男の子がいた。
ある日、程々が私に、「僕んち、こんな大きいパテがあるぞ」と、マッチ箱の大きさの形を両手で作って見せてくれた。

なんですと?!パテ?!しかもあんな大きな。うそだ。絶対。
本当なら、とうに持ってきてみんなに見せて自慢しまくってるよ。
「うちだってパテあるよ、う…ん、こんな大きい」と、私はこぶしぐらいの大きさを作って見せた。


「うちのはこんな大きい!」程々が作った大きさは洗面器ほど。
「うちのはこう!」、わたしは腕を半径として円を描いた。
「うちのは…、うちの大きさ!」と、程々がもう興奮気味。
「うちのは、空と同じ」、わたしは落ち着いて言った。

しばらく沈黙した程々は、わたしを泥水の中に押し、わたしは倒れ、体中泥まみれになった。
前日の雨で、地面の所々に水が溜まっていて、わたしのうしろが、ちょうどそういう場所だった。



程々一家は、ふるさとの南京に戻った。
程々も、程々の耳の不自由なお姉さん荷々も、どうしてるのかしら。