飛ば…せない、竹とんぼ

雨上がり、キラキラの日差しと共に気温も20℃を超え、風も強い。



「ママだいじょうぶよ、ふみちゃんが風を倒してあげるから」と、新宿御苑に入ったばかりのふみは、ドンキホーテのようだった。



「あ、つつじだ」と、休憩の場所で座ってるふみは、遠く咲いてるつつじのほうを指さす。
根津神社以来、ふみはつつじへの認識が固まったようだ。



保育園では、ふみたちの年齢のクラスは、もう午前のおやつがなくなったけど、休みの日には、ふみの要望によってなにかを食べさせることもある。

お菓子を食べてるふみに、スズメが近づいて、“ちょうだいよ”という顔をしてた。




“ちょうだいよ”という顔をしてるのは、スズメだけではなかった。
ホームレス風の年配な女性がいて、近づいて私たちのカバンを覗いた。おにぎりとかがあると、一目でわかるのだ。

なにかを言われる前に、ふみとその場を離れた。しかし御苑にホームレスの方を見かけるのは初めてかもしれない。200円の入場料がかかるので。


ふみに、「さっきのあのおばあちゃん、ぼく、そのおにぎりちょうだいと言ってきたらどうする?」と聞いた。
「どうして?」と、ふみは不思議そうな顔して。
「食べものがないから、かわいそうな人だから。う…ん、もしそう言われたら、ママはおにぎりをあげるかもしれない、うん、あげると思う。ふみは?どうする?」
「イヤだ、ふみちゃんはあげない!いやだよ」
「そうか」



早い時間だったから、御苑に人はまだ少ない。
緑のトンネルもう日陰になっていた。



「あの雲、雷のくもじゃなぁい?」とふみは空を指をさす。
そう見えるそう見える。



少し前に、知り合いの方が竹トンボを送ってきて、外で竹トンボを飛ばしたいと、ずっと楽しみにしてたけど、ふみが風邪をひいたり、お天気が悪かったりして、できなかった。

何年か前に、千葉にいる友人のうちを訪ねた時、趣味で竹トンボを作る方のところまで連れてもらって、竹トンボと凧を頂いた。
けど大の大人が一人で竹トンボを飛ばすのもなんなんですから、しないままで、その竹トンボたちも引っ越しによって行方不明になってしまった。


ふみは、竹とんぼは初めて。





飛べ〜 飛べ〜
あれっ、あれ?
案外難しい。なかなかうまく飛ばないじゃない!

ふみは笑いながら一回また一回、わたしの失敗した竹とんぼを拾い、
「ママもっとやってよ」と渡してくれる。


御苑に人がだんだん増え、近くに学生さんらしいグループが何組もいた。輪になって座って、何かの練習だったり、おしゃべりしたり。部活なのかしら。

竹とんぼ、うまくいかないな〜 10回飛ばして2回ぐらいかな、少々飛んだのは。
ムキになったわたしは諦めようとしない、ふみはというと、相変わらず少しも文句がなく竹とんぼを拾って渡してくれる。

気がついたら、近くにいた学生のグループのお兄さんがこっちを見て、面白そうに笑ってる。

情けない。これはいかん。すぐ片づけて、ふみとその場をあとにした。


八重桜も葉桜になり、その花びらが木の下で大きなピンクの絨毯を広げてる。


揺れる木洩れ日が絨毯の模様を変化させる。




そらは青いや〜



タンポポの花を吸う蝶々。




ふみと再び休憩所に行って、お昼のおにぎりとコロッケを食べた。


賑わってきた御苑を去った。



帰りに、ラブちゃんと会った。
おうちの玄関あたりにいたラブちゃんは、わたしたちを見て、庭先まで出てきた。
「ラブちゃん、おりこうだね、きょうは暖かいね。きのうは雨で寒くなかった?」とわたしは声をかけながらラブちゃんの頭をなでた。
顔をなでる時、ラブちゃんはわたしの手をまくらにして、そのままコロンとなって、気持ちよさそうに目を細めた。
手のひらの上のラブちゃんのホホは暖かくて、重い。

手を抜けないや。頭を動かすのもわるいし。しばらくラブちゃんの手枕になったわたし。

ラブちゃんの頭を動かし手を抜いて、ラブちゃんは姿勢を変えなかった。



ふみは喜んでラブちゃんを撫でて、ラブちゃんの大きな耳を捲って、中を覗いたりして、
「これはラブちゃんの翼だ」と言う。

なるほど、大きなお耳だもんね、天使の翼にそっくりだわ。



近所のお姉さんが来た。買い物袋を置いて、「ラブは人気ものだね」と言って、しゃがんでふみとおしゃべり。ラブのどの辺の毛がふわふわとか、詳しくふみに教えてる。
みんなラブちゃん大好きなんだ。




うちに帰って来ると、昨日ふみと摘んできた野菊が静かに私たちを待っていた。