さくらんぼう

小さな桜の木の下に、少し赤っぽくなっているさくらんぼが何個か落ちていた。
ふみはそれを拾って、一個私のカバンに入れ、一個を自分で握りしめて、
「ママ、さくらんぼが言ってるよ、草のところより、ふみちゃんのところがいいって〜」とふみはニコニコ。
しばらく歩いて、雑木林前になって、「さくらんぼは、草のところがいいってぇ〜」と言って、ふみはそれまで握ってたさくらんぼを雑木林の中に入れた。
持つのが面倒くさくなったのかしら。


ふみは、同じ組のSちゃんが好きのようだ。

Sちゃんは端麗な顔立ちの持ち主の、今年から入ってきた女の子なんだ。

最初のころは、ふみ、いつもSちゃんが好きSちゃんが好きと口にするのだが、いつの間にか「ふみちゃん、Sちゃんなんか大キライ、Qもキライ」
Qとは、今まで仲良しの、いつも園のピンク色のエプロンを付けてる男の子。

どうもSちゃんとQ君が仲良くなったようで、お迎えに行く時は、SちゃんとQ君が手を繋いで走り回るのをよく見かけました。

それでふみは寂しく感じたんだ。気持ちをどう整理したらいいか分からなくて、あんな“大嫌い”とか、ひねくれたことを言うんだね。

昨日ふみを迎えに行ったら、ふみ、やたら機嫌がよい。
「ふみ、トイレでおしっこしてきて」と言ったら、
「は〜い」とすぐ走って行ったのがびっくり。
「イヤだ行かない!おしっこない!」のが、いつもの保育園から出る前の風景だけどね。

ふみがトイレに行ってる間、連絡帳を取り出して読んでみました。
なんと、憧れの(先生の言葉)Sちゃんと手を繋いで公園で遊んでたじゃないか!

「え〜ふみちゃん、今日Sちゃんと遊んだの?」
「うん!」
「手も繋いでたの?」
「うん!」
「楽しかった?」
「うん!」
なかなか素直なふみであった。




研究によりますと、子供がうそをつくようになるのは、4歳5歳あたりからだそうです。
無論、意図的なウソの話なんですけど。
つまり相手の気持ちを気遣ってあげるためだったり、自分を守るためだったりのウソです。
これでも日本人は世界の中で結構遅いほうですって。原因はなかなか親離れができないからだとか。


最近ふみは、ウソのレベルまで行かないが、自分の“妄想”を語るのです。
「ね、ママ、この怪獣の服は、ふみちゃんがパパと一緒に買いに行ったよ。」「ママ、このサンダルはパパが買ってくれたよ」
「そう」と、適当に返事しましたけど、(パパじゃなくて、全部ママだよ〜 それにあの服の図案は“怪獣”ではなく、恐竜だけどね)
「ねママ、ふみちゃん、この間パパと新幹線乗ってきたよ、マックスも、のぞみも乗ったよ…」

ふみ、パパともっと一緒に遊びたいんだね〜

かわいいウソ、いいえ、妄想、ですね。

パパはお仕事が忙しいですから、お休みはなかなかふみと合わなくて、丸一日ふみと一緒にいるのは、あまりないです。

ふみはよくわたしに、
「ねママ、パパ今日も仕事してふみちゃんのことを考えた?」
「考えた考えた。ずっと考えてるよ」
「どうやって?」
「泣きながら」
「パパが泣いてるの見て、Yさんどういう?Oさんは?Kさんは何言った?」

「Yさんは、泣かないでね、こっちまで悲しくなるんじゃないかと言った。Oさんは、そうそう、泣くことないよ、ささ、お茶でも飲んで。Kさんは、そうよ、すぐ会えるんじゃないと言ったよ」

ふみとよくこの話しをします。



主人にふみの“妄想話”を話したんです。そうしたら、主人は休みを調整して、明日三人で出かけることになりました。鎌倉へとか。


ふみはとても喜んでました。
「ふみちゃんパパ大好き、よほどすき」と。
よほどすきって、はははは、おもしろい言い方ですね。


しばらくしたら、ふみ急にわたしに、
「鎌倉はふみちゃんパパと行くから、ママは行かないでね」と言い出した。
「どうして?」と聞いたら、
「ママはお仕事をしててね」とふみはわたしを見ないで言います。

「ふみちゃん、わかった。ふみちゃんはずっとパパとお話をして、ママしゃべらないで、後ろについてるだけ、いい?そうしたらママも一緒に行ってもいい?」
「うん!いい!」
ふみはまた喜んでました。

分かりやすいなぁ〜ふみは。
せっかく一日中パパといられるのだから、パパを独占したいものね。




この頃のふみは、自分で服やズボンや靴下を着たり脱いだりするのが好きで、「パパ見てて、ママ見てて」と言いながら。



ふみがわたしのカバンに入れてくれたあのさくらんぼ。