赤い傘

「ママ見て、夕焼け!」
今朝、ふみはガラス越しに東の空を見て叫ぶ。

本当、一瞬あったわ。でも夕焼けじゃないのよ、ふみ、朝焼けなんだ。

カメラ持って撮ろうとした時、その朝焼けは、すでに幻のように消えた。



まもなく、雨が降ってきた。
「朝霞不出門、晩霞行千里」という中国の諺を思い出す。
朝焼けある時は天気が崩れやすい、夕焼けを見たら長い旅にでてもいい。かな。



雨は小降りで、風もなく、ふみの「ふみちゃんも傘でいい」という要望にOKした。
この蒸し暑い中、カッパは、やっぱり蒸れるもんね。

ふみは嬉しそうに傘をさして歩き出す。



ふみは、大きくなったね〜


先週、ふみと電車で出かけて、降りる時、わたしの買ったばかりの赤い傘を、車内に置きっぱなしにして、忘れた。


形も色合いも気に入った赤い傘だから、悔しかった。

その後ふみは何回も「どうしてあの傘を電車の中に忘れたの?」と問うてくる。
「そりゃママはふみにばかり気を取られて…」と答えるわたし。


一週間あまり過ぎて、今晩、ふみを寝かしている時、ふみは急に暗い中で、「ママ、あの赤い傘、戻ってくるよ、今ね、お空で飛んでるの、すぐママのところに戻るから」と。

思わずふみをぎゅーっと抱きしめた。
「そう?わかった、よかったぁ〜ありがとうね、ふみちゃん」
ふみは眠った。

ふみ、本当にありがとう。ママのこと、ママの気持ちを心配してくれてるんだ。

でも正直、あの赤い傘のこと、もう忘れてるぐらいだよぉ〜
おとなって、つまらないね、こんなに簡単にもうあの赤い傘を忘れるものね。