本当に寒い

空には怪しい雲が流れて行って、北風がビュービュー。陽射は急に溢れて来たり、隠れたりして、寒い。東京の周りはみんな大雪になっているよう。

寒い中、ふみと音楽教室に出かける。心の中では本当はイヤでしょうがない、最近は寒さに怒りすら感じるわたし。
昔はないけど、ここのところ、寒いと必ず体のどこかがおかしくなる、とにかく具合が悪い。かつてー20℃の中で暮らしていたのは、あれは本当にわたしでしょうか。なんだかどんどん自分は、一年中、夏か春しかない南国出身だと錯乱してきた。(暖かいところへの憧れが強すぎだ)


音楽教室は暖かい。
去年、他の男の子の生徒さんもいたが、脱退して、今はふみ一人。あとはみんな女の子。
ふみは余計につまらなさそう。でも少なくとも今学期をちゃんと終わらせたかった。

今日も、わたしはほかの保護者と一緒に前にでて、子供たちとペンギンさんの動きしたり、スキーをするモグラ(するわけないじゃん)の真似したり、冬眠から目覚めたクマのアクビ(これはふみは真似はいらない、本物のあくび連発)…
「あ〜楽しいね、ふみ」と、ふみに言わないと。

今日はいくらなんでも昼寝をさせたかった。
夕方から2時間の柔道があるから、昼寝なしだと夕飯に眠ってしまうから。

ふみは寝ない。強風はベランダで干してる洗濯物を巻き込んで今でも飛ばされそうで、「わっ、すごい」と、ふみはいろんな寝ない理由がある。


2時半すぎ、ようやく眠って、3時に起こした。
おやつを食べさせ、4時前に道場に着いた。

今日で二回目、けどふみは、まるで二年目のように、前回の緊張と涙は、うそみたい。
柔道着を着て、すぐ走り回り始まった。
Sちゃんを追いかけるか、追いかけられるか、とにかく楽しくてしょうがない。





お稽古が始まった。
足の力を一切使わない、腕だけの匍匐前進、ふみがやってるのは、赤ちゃんのはいはい。

それでもふみは楽しく、はしゃいだ。


まじめにやる時も少しはあった。


家で練習してた“でんぐりかえし”は喜んで披露した。

Sちゃんを誘って強引に相撲をとり始める。



ふみは、柔道のトレーニングより、それ以前のものが、まだできてないと先生は気づき、ふみとSちゃんともう一人新人小学生の女の子を呼んで、端っこで個人指導をやることにした。

まず礼儀から。(ありがたいありがたい、礼儀作法は、なんにがなんでも身につけてほしいわ)

今日の先生は前回と違って、メガネの男の先生になった。
ふみは普通に、「前の男の先生は?」と友達のように聞いた。
相手は先生だよ先生、わかってるのかな、今は稽古中、響いてる声の持ち主のこの50代の先生に対して、少し怖がるのが普通だよ、ふみ。


まず正坐の仕方を教える。さきに左足から、次は右足、座る時の手の置く場所、礼を言う時の頭の角度、


や〜これらができたら、格好いい男の子になれるぞ、ふみ。

最初はおもしろがって先生の真似したふみは、間もなく飽きてきて、勝手に走りだした!

大人同士が柔道をやっているところに行って、下に押されたほうの人の顔を覗き込んで、
「がんばれ」と、ちょっかいをだす。
「ふみ!」と先生は厳しい声で呼んだ、
「え?だって疲れたよ」とふみは全然怖がらない。
「疲れた?やる気あんのか?少ししかやってないじゃないか」
「え〜?だって、くたびれたもん」と言ってふみは、“大”の字になって仰向きになった。ほかの柔道をとる人の邪魔にもなってる。

わたし、畳に上がってふみを叱りに行きたい気持ちを、かろうじて抑えた。

先生の響いた声での「ふみ!」は、ふみ、まったく無視、少し休んで、すぐ起き上がって勝手に走り回る。

なにがくたびれたよ。休憩時間、先生は走り回らないようにと言ったのに、ふみだけなんにも聞いてないようで、Sちゃんの「ふみ君、走らないって約束でしょう?」との嘆願も無効だった。


やがて、ふみは大人生徒により連行された(うつ伏せのふみは、帯をひっぱられ、まるで甲羅を急に持ちあげられた亀のようだ)、柔道の基本を教える50代のY先生のところに戻された。
しかしY先生はそれ以上怒らない。だから、ふみは、やはり同じ調子。
ちょっと習うと、すぐふざける。
急に、うつ伏せのSちゃんの体を覆うようにかぶせて、「ハンバーグだ」と両手を水平に放す。


先生は、「ふみ!」と言って、それ以上怒らない。

「先生、どうぞ、この子のお尻をいくらでも叩いてください」と、よほど頼みにいこうかと思うほど、ふみにあきれてしょうがない。

2時間終わって、まっさきにY先生のところに謝りに行くわたし。

「いいえいいえ、最初はこんなもんですよ、だんだんしっかりしてくるんですから」と先生は優しそうな笑顔だった。


「すみません、ふみの母親です。本当に申し訳ありません…」、このようなセリフ、わたしには、もう何回なんだろう、とにかく初めてではないわ。

帰り道のふみは、少しも自分のやったことについてちゃんと認識してない、
「ママ、ふみがんばったでしょう」と自慢そうだった。
とんでもない寒いし、もう説教の言葉もでなかった。


「ふみ、柔道の先生、怖くないの?」
「んん〜全然」
「あっそう、じゃ、保育園の先生は?園長先生とか」
「怖くないよ」
「じゃ、ママは怖い?」
「…、う…ん、怖い」

よかったぁ〜まだこわいのはあるから、しかし、この怖さの消費期限はいつまでだろう、
いつかママも効かなくなったら、この子、本当にもう手に追えないことになるのかしら。