金平糖

冷たい雨は昼までずっと降って、気温は下がり、外は暗い。

ふみはちょっと風邪気味、鼻水とお腹が少し緩い。
治っても、保育園に行ったら、またもらってくる。仕方がない、年齢とともに免疫力がだんだん強くなるのを待つしかない。


殺菌のため、昼は、にんにく・ショウガ・葱が入ってるチャーハンを作った。
ふみは、昔からチャーハンが嫌い。
何でだろうね。見え見えの緑の葱のせいだと思うから、今日の葱は白い部分しか使ってないんだ。


ふみは、やっぱり何口しかなかった。その何口はわたしの気持ちを配慮してたと思う。

わたしはチャーハンに辛いお味噌を少し付けて食べたが、ふみは、「じゃ…、お酢」と、黒酢を少し入れてあげた。


ふみの酢好きは、わたし譲りでしょうね。

とくに中華五目焼きそばを食べる時は、お酢をじょぼじょぼとかける。でもこれは本当においしい、なんとも言えない甘味がでてくるから。

影響を受けた、酢が苦手だったパパも、少しずつ酢を食べるようになった。

酢はいいよ〜 とくに黒酢。おいしいし、殺菌をしてくれる。
だって小学校の時は、風邪予防のため、よく教室の暖炉にお酢の入ってるヤカンを置いて沸かすんだもん。
その湯気だけでも殺菌するのだから。


体調イマイチのふみは、昼食を終わって、即眠ってしまった。それがいいそれがいい。


昼過ぎ、段々晴れてきて、ふみを起こす。いつまでも眠ってたら、夜またたいへんだから。


電車に乗って市ヶ谷の郵便局へ。そこは土日もやってるから。

駅で、お雛様を飾っていました。本物の人形のお雛様。


保育園も少し前から玄関でお雛壇を飾りまして、ふみはそれからずっと「うちのお雛様は?雛あられは?」、興味は主に後者である。


帰りは、せっかくの晴れとのことで、歩いて帰ろうと提案した。
最初は、いやだいやだと言うふみは、歩いたら、パパの仕事場へ行けると聞くと、快くOKした。


「パパに会いたい、ぼく、パパに会いたいよ」
「へぇ〜 じゃふみ、パパと遊ぶ時は、ママのことも思い出したりする?」
「うん。」
「じゃ、昨日、消防博物館に行った時も?」
「うん」
「どんな時ママを思い出したの?」
「ハナクソを食べちゃダメだよ〜とママが言ってたのを思いだした」

はははは、ハナクソを、食べようとしてたんだ。
しょうがないね。




明日は、17℃まで登るそうで。



総武線も中央線も、堀の向こうを頻繁に走ってる。


電車を見ているふみは、とっても機嫌がよい。
気分が乗ってまいりまして、ふみは歌いだす。
「♪ABCDEFG,HIJK…
OPQったらRST」


「ちょっと待って、ふみ、その“たら”はなに?」
「え?♪OPQったらRST」、ふみは少しも気にしないで歌い続ける。

「ちょっと待ってよ、“たら”は勘弁して、何で“たら”なんかいれるの?」
「え?♪OPQったらRST…」

“たら”を入れると歌いやすいのかしらね、でも、やっぱりやめてほしいわ。なんかご高齢なおじいさんみたい。DVDのことをデェブィデェーを言ったりするおじいちゃん。



「あ、ふみ見てぇ、ここから見てぇ」、わたしは高い木の枝に留ってるカラスを指さす。
「カラスだ」
「なんだかこの角度から見ると、カラスも格好いいじゃん」
「ほんとうだ」、ふみも納得。
そのカラス、羽を光らせて、遠くを眺め、なかなかの風貌である。

「ね、ふみ、カラスって、なんでみんなに嫌われるのかな」
「人間に、いろいろいじわるするからじゃない?」
「いじわる、そっか。ゴミを散らかすとか、人を襲うとかね」
「でもママ、ハトだってゴミを散らかして食べてるよ」
「そうよね、うん。人を襲うんだって、人にいたずらされたからだもんね」
「うん…」ふみは考え込んでる。


「ようは、カラスは、おとなしい顔をしてないから、思わない?ふみ」
「ハトはおとなしいよ」
「違う違う。ハトはずるいの。やってることはカラスと大した変りはないのに、おとなしい顔を作るのが上手なの。カラスは素直だから」

なんだか結論はカラスは素直と言うのもね〜 なんかすっきりしないね。


中国では、カラスが人々に嫌われる理由はただ一つ、真っ黒とのこと。
真っ黒の鳥、不吉の象徴。

来日したばかりに、町中カラスがどうどうと飛んでるのを見て、ひどく驚きました。
この国どうなるのだろう、こんなたくさん不吉な鳥が棲息するなんて…



一駅分の道は、ふみとお喋りしながら、あっという間だった。

駅のスーパーで、ふみは「金平糖金平糖」ってずっと注文する。
「なんで金平糖買うのよ」
「だってお雛祭りだもん。お雛さまの日に食べるの!」
金平糖を買った。

外にでた途端、ふみは夕日に照れされた精一杯の笑顔をわたしに見せ、
金平糖を食べたい、1個だけ、本当に1個だけ」

「あれ?ふみ、お雛様の時食べるって、ついさっき誰が言った?」
「えぇぇ〜 だって、ぼくは男の子だし、お雛様の日は女の子が…」

!(^^)!
 

金平糖を口に入れたふみは、さらに満面の笑みを見せる。



「ふみ君のママ、ふみ君のママ〜」、振り向いたら、Sちゃんでした。
Sちゃんは、はあはあ言って走って来て、Sちゃんの後ろを見てみたら、ずっと遠く、ご両親が歩いてる。

「Sちゃん…」、わたしがまだ話してないうちに、ふみはもう嬉しくてSちゃんと走りだした。


あれれれ、ただいま、「もう疲れた、疲れた」とふみが…。


ふたり、どんどん遠くに走って行って、やがてSちゃんのママは猛スピードで走り出して、Sちゃんを摑まえて、やっとこの楽しい競走を終わらせた。


「ふみ、ずいぶん速いじゃない。疲れた疲れたって言ってたのはだぁれだ」
「え?…、あ、運動しないとな、ママも言ってたじゃん」


!(^^)!
ずいぶん都合のよいことばかりで。


ベランダから見えた満月。