うわばき
夕べの雪は、夜が明けた時、もうほとんど溶けてしまい、晴れとの予報だけど、今朝はまた冷たい雨がぽつぽつ、本当にしつこいね、この雨は。
登園道で、久しぶりにショベルカーを発見。
ふみはショベルカーがまだ好きだが、小さい時の情熱ほどではなくなった。
でも黒いショベルカーはあまり見ないから、近く寄ってみることに。
保育園の玄関で、Mちゃんの名前が書いてる上履きがほったらかしになってた。
Mちゃんの上履きは、なぜかいつもあっちこち散乱してる。
この前は、MちゃんがT君の名前が書いている上履きを堂々と履いてるのを見て、
「Mちゃん、その上履きはT君のじゃない?」と言ったら、
Mちゃんは下に向いて、しばらく自分の足元を見て、
「あっ、…、いいの、ふふふ」
Mちゃんって、なにか面白い子なんだ。
ふみは素早くコートを脱いで、
「ママ見ててね、ぼく、手を使わないで上履きを履くことできるよ」と、ふみは片足を爪立てして、足首をねじねじさせ、上履きをなんとか履いた。
だからなんだと思いながら、「おっ、足も器用だね、ふみは」と言って、「ふみ、お部屋に入ったらMちゃんに教えてね、上履きは玄関にあるよと」
「これ、Mちゃんのじゃん、ぼくが持って行くよ」と、ふみはその上履きを拾って奧へ行こうとした時、
SちゃんとHちゃんがMちゃんを連れて玄関まで走って来て、
「Mちゃんの上履きMちゃんの上履き」と言って、下駄箱の各棚をチェックする。
SちゃんとHちゃんは、ふみの組で背が一番大きい女の子、月齢も上で、しっかりしていて、ふみと同じく月齢が低いMちゃんの上履きがないと聞いたら、世話してあげようと思ったでしょう。
棚を綿密にチェックする二人に対し、Mちゃんは、関係ない顔してうろうろ、ニコニコ。
「Mちゃん、上履きはふみ君が持ってるよ」とMちゃんに言ったら、
「え〜、へへ、ね、ふみ君持ってるって」と、Mちゃんはやっぱり関係ない顔してSちゃんとHちゃんに報告。
「本当?ふみ君、Mちゃんの上履きは?ちょうだい」とSちゃんが。
「嫌だよ、ぼくが拾ったの。ぼくがMちゃんに渡す!」
「ちょうだい!」
「嫌だ!」
と、あっという間に奪い合いが始まり、あっという間に乱闘になり、
ふみは片手にリュックとコートを持って、片手はMちゃんの上履きを指で挟んで離さない。
「ふみ、やめなさい、やめて」とのわたしの声は、子供たちのトーンの高い声の中ですぐ埋もれてしまう。
乱闘の末、ふみは上履きを持ってまま、Sちゃんの顔を叩いた。
ちょうど中から出て来た、ある韓国人のお母さんが、「やめなさい!なにしてるの!だめじゃない!!」と、ふみとSちゃんを離した。
あ、そうだ、見てる場合じゃないよ、わたし。目覚めたように慌てて靴を脱いで床に上がる。
その隙に、Mちゃんは自分の上履きを拾い、にやにやして奧へ去った。今の乱闘が自分になにか関係あるとは、全く感じていないようだ。幸せなちっちゃいMちゃん。
顔を叩かれたSちゃんは、ふみになにかを言おうとしたが、わたしを見かけて、言葉を飲み込んで中へ走って行った。
Hちゃんもついて走って行った。
ふみはリュックとコートをぶら下げて、ぼーっと立つ。
あ〜〜〜〜
「ね、ふみ。ついこの間言ったでしょう?物を持って人を叩かない、危ないから、Sちゃんが女の子でしょう、顔に傷とか残ったらどうする?ついこの間言ったでしょう」、わたしはため息をつく。
「だって、ぼくが拾ったもん。ぼくがMちゃんに渡したいの、なんでSちゃんに渡すの?嫌だよ」
(どうでもいいじゃない、肝心のMちゃんは誰から渡されても一緒だし)
「気持ちはわかるけど、でも言葉で解決して。暴力じゃなくて、言葉で解決するのが人間なんだから」
(だからいつも戦争で問題を解決しようとするのは、人間のやり方じゃないと思うんだ、いつまで経っても結果が出ないし)
「だって…」
「だってはないの、今のはふみが悪いなんだから、物を持って人の顔を叩くのは最低よ、男らしくない。Sちゃんにあやまってきて。できるよね?」
と、ふみと手を繋いてお部屋に入った。
Sちゃんはわたしを見てすぐ走って来て、
「Sちゃんは悪くないよ、ふみ君がSちゃんを叩いたの」
「もう痛くない?ゴメンね、ふみ君がSちゃんにあやまりたいって、ね?ふみ」
ふみはしぶしぶSちゃんに近づいて、「さっきはごめんなさい」
「…いいよ」
あ〜やれやれ。
あやまったふみは、急に清々しい顔になって、
「玄関まで見送りする」とわたしの手を繋いて、ステップして玄関まで来た。いつものようにタッチを4回と言って、10回ぐらいして、バイバイして、ドアが閉まる瞬間、
「ママ、お仕事頑張ってね」とふみは大声で言った。
一目惚れしたティッシュケース、春らしくて、
中のビーズは動くの。