春の一日




また晴れた朝を迎えた。長い長い雨の後だから、ちょっと感激すら覚える。


目覚めたばかりのふみは、
「野菜はどうなってるかな」と、さっそくベランダのとびらを開いた。


朝食後にも、ベランダのとびらを開いて、閉じて、またすぐ開いて、
「ふみ、そんな早く大きくなれないよ、植物というのは」
「栄養剤をふみがあげたよ」
「それでもすぐにはね。お野菜ばかり見てないで、お花はどう?」
「お花はママが守ればいいよ。お花が好きでしょう?ぼくはお野菜を守るから」


あっそう。一緒に見てやってよ。


お片付けしているわたしに、「ママ来て、ちょっと来て」と、ベランダの野菜をずっと監視しているふみが呼ぶ。


陽ざしの中のふみは、床に座って、手足を出して、レースのカーテンの模様が自分の肌に映ってるのを、微笑んで見せてくれてる。

なるほど、カーテンが微かな風で揺れ、模様も微妙に変わり、そのたびふみは笑う。


ママのこれと同じ。

ママのストッキングを手に被せるふみ。

似てる似てる。


スーパーの朝市のお買い物へ。
ふみは、仮面ライダーのベルトを付けて行くと。

ベルトを付けているふみは、「変身!」とか、「キ〜ック」とかで、にぎやかに進行。



いっぱいお買い物を持って坂を登るわたしに、
「ママ、だいじょうぶ?」と言うふみは、買ってもらった好きな小さい豆乳パック一本をだけ持っている。


荷物を卸して、すぐ近所の公園へ。ふみはずっと縄跳びを練習したいというから。

縄跳びを一生懸命練習するふみ。


「惜しい、もうちょい」「頑張れ!その調子その調子」と、わたしはブランコに乗って、近くなったり遠くなったりする春の空を眺める。

気持ちいい〜 ブランコ、最高〜



「ママ、見て見て」とふみは、ちっちゃい丸いものを持って走ってきた。「BB弾だね」、ふみは嬉しそう。


「え〜〜捨てたほうがいいよ、なんか汚いし」
「いいの、BB弾だもん」
「あ、それ、BB弾じゃなくて、魚の目玉かもしれない、もうちょっと見せて、あー、やっぱり魚の目玉だわ!」(適当に言ってる)


「魚?ここ、いつ海だったの?」と、ふみはとっても真剣な顔でわたしに答えを求める。

「むかしむかし、ここはほとんど海だから」(また適当に言った)「あ、でもこの目玉は、昔のものには見えないな、最近のだね。あ、わかった。カラスだ。カラスがゴミから魚の頭を取り出して、食べて、目玉をここに捨てたんだ、うん、きっとそうだよ」
「…、どうして一個だけなの?目玉は二つでしょう?」
ねばるな、この子。
「あ〜、もう一個がね、他の人が拾ったのよ、BB弾だと思って、ふみみたいに」
「だれ?」
「えー、しゅんぺいっていう子だよ」

「しゅんーぺい?」とふみは独り言のように、持ってる汚いBB弾を捨てた。
魚の目玉だと信じてくれたんだ。


近所のさくら、咲いた。しかも満開。
目の周りに白い輪の付いてる緑の小さい鳥「目白」が、咲いてる花を転々と食べ尽くしている。

ふみとしばらくその光景を仰ぎ見る。
「さくらがかわいそうね」
「うん」
「目白って、かわいいね」
「うん」
立場はっきりしない会話だ。



おうどんが好きなわたしだが、ふみはうどんがあまり好きじゃなくて、そばは大好きだけど。
昼はどうしても、おうどんを食べたいから、ふみに、
「Sちゃんはおうどんが大好きだよ、いっぱい食べるんだって」
これは適当に言ってるんじゃない、ほんとう。

「ぼくもおうどんをいっぱい食べれるよ」


結局ふみは、おうどんをそんなに食べれなくて、ご飯にした。


いっぱい日光浴をしたせいか、だるくなってきて、昼寝、少しでもいいからしたい。
ふみも一緒に横になって、一時間余り、わたしは何回もうとうとしたが、ふみはまったく眠れず、けど、ずっとお布団の中でごろごろ。小さい声で、なんとかケンジャーの戦い場面を一人でぶつぶつ言う。

保育園の昼寝時間の様子、よくわかった。

以前も先生に言われたことがあって、保育園では一応昼寝はすること、という決まりがある。
ふみみたいな、体力が付いてきて、昼寝ができない子は、かわいそうだけど、起きてはならない、集団生活なので、眠れなくても、みんなと一緒にお布団の中にいなくてはならない。


毎日の昼寝の時間、ふみはこういうふうに、お布団の中で、小さい声で何かを言いながら(唯一できる遊び)、ごろごろして、一人で、かなり長い時間を過ごしているんだ。



えらいな〜 えらいというか…。



夕飯は餃子を作ることに。ふみもお手伝いをしてくれた。頼んでではなくて、本人がかなり積極的。

餃子はおいしかった。


三人で八朔のマーマレードを作った。今度はふみのお手伝いは少しだけだった。

苦みをもうちょっと残したいと思って、八朔の皮を、本来何回か茹でてその茹で汁を捨てなきゃならないのに、一回切りにしたため、やや苦みが強い。
わたしは苦い味が好きだけど、あまり苦いのはね〜
だから次は、何回か茹でてから作りましょう。