サボテン




ひんやりした何日間のあと、今日は暖かい。穏やかな春の陽気。


朝食の時、焼いたパンに塗るマーガリンが切れたの気付いて、仕方なくバターにした。(実際健康のためは、マーガリンより、まだバターのほうがいいらしい)
無塩バターじゃないので、塩味を感じる。
ふみは、おいしそうにパンに塗って食べる。
「ふみ、たくさん食べちゃダメよ。塩分が結構入ってるから。高血圧とかになるよ」
ふみは全然気にせず。(当たり前でしょうけど)
「ふみ、こわいよ、ほんとうに。高血圧や糖尿病になって、子供の場合、よく目が見えなくなったりするからね」


ふみは止まった。
「目が見えなくて、もう、もうSちゃんが見えなくなるの?」

(ママが見えなくなるじゃなくて、Sちゃんが見えないのが、よほど心配なんだ)
「そうそう、それは深刻なことでしょう?」
ふみ、深刻な顔した。

ほほほ、Sちゃんのおかげで、塩分の怖さを脳裏に刻んでくれたのかしら。
Sちゃんの存在、いろんなところで助けになってるわ。


「ふみは、ほんとうにSちゃんが好きだね。Sちゃんもふみが好きなのかな」
「うん。好きだよ。でもSちゃんはH君といつも一緒に遊ぶの」
「じゃ、SちゃんはH君とふみと、どっちが好き?」
「ふみ。」
「ずいぶん自信があるね。どうしてわかる?」
「だって、Sちゃんはいつもぼくの手を繋いで来るから。柔道の時もそうだよ」
なるほど。


ふみはSちゃんがほんとうに好きなようだ。何回もSちゃんの話題が出る。

さらに今日は、
「ママ、どうしてぼくの名前をS(Sちゃんの名前)にしなかったの?ぼく、Sの名前でもよかったのに」と言うふみ。

?!?! あははは、どんだけ好きなのよ〜〜〜 
わたしは噴き出してしまった。



朝食後、ふみとベランダに行って、ジョウロで植物たちに水をやる。
「野菜君、もっと大きくなってよ」とふみが。
ふみは、お花は女の子、野菜は男の子と考えてる。


サラダ菜は、大事にし過ぎて、食べ頃を過ぎて、お花になってる。

アジサイはもう少し大きくなった。


ふみはハサミでお野菜を切り取って、食べよう食べようと騒ぐ。野菜嫌いのくせに。


野菜を洗って、そのまま少しずつ、つまんで食べた。何種類もあるから、野菜ソムリエの気分。

やはり食べ頃が過ぎたせいで、みんな苦い。もっと早く食べればよかった。



時間を見てたら、音楽教室の時間まであと30分。急いで出かける。


途中、鯛焼き屋さんの前を通る時、行列を見て、ふみも食べたいと言い出す。

ふみの食べたいのは、お団子。けどお団子はなくて、鯛焼きにした。
ふみは餡子があまり得意じゃないんだ。
案の定、鯛焼きは半分しか食べられなかった。


保育園の同じ組のD君は、お引っ越しのために、4月から違う保育園に行くことになった。
D君はずっとふみと同じ組で、「大きくなった会」では、ふみと二人で“寿司屋”をやってた。

「さびしくなるね、ふみ」
「うん」と言うふみは、さほどでもなかったようだ。
「ふみ、もしSちゃんも引っ越しで違う保育園に行ったら…」
「いやだ!いや!ぼくも引っ越す、Sちゃんの保育園に行く!」
「へぇ〜 じゃ、Mちゃんは?Mちゃんが、もし違う保育園に行くなら?」
「いやだよ。でもぼく、すぐその保育園に行って、Mちゃんを無理やりに連れて帰るから」


(^o^)/ しかし、この対応の違いはなんなんですか。
Mちゃんなら、自分の思い通りになれると感じてるのかしら。
Sちゃんは、自分のほうが折れて、合わすことが必要だと判断してるのかしら。


なんか興味深い発言で、考えてしまうわたし。子供の世界はおとなの世界と、大した変りはないのかもね。


音楽教室では、明後日の発表会の最後の練習。


この頃、ふみの頭また大きくなったように見える。
やっと胸囲が頭囲より大きくなったけど、今の感じでは、また頭囲のほうが勝ったみたい。


ふみは依然として真剣さが足りない。
お辞儀をする時は、ふみは必ず頭のテッペンを床に着けて、しかも両足の間から後ろを覗く。



夕方、近所の和菓子屋さんから、おはぎを買った。もう彼岸入りですものね。

仏さまにお供えしてから、3人で頂いた。
つぶあんのおはぎ、上品でおいしい。


ベランダの植木鉢に、今日買ってきたお花の種をふみと蒔いた。
うまく芽生えて、咲いてくれたらいいな。


小さいサボテンも一緒に買った。


「ふみ、ママは以前もサボテンを二回も育てて、育ちやすいものなのに、二回とも腐って死んだの」
「なんで?」
「水をやり過ぎたから。好きで好きで、心配で心配で、ついつい水をたくさんやってしまって、サボテンのためだと思ったけどね。結局、逆な結果になって。だからふみ、何に対しても、好きになるのはいいけど、なり過ぎなら、いい結果はないよ。人間の気持ちはそういうもの、度を超えると、単なる負担をかけるしか、なんにもならないから」
ふみは黙って聞いてた。