久しぶりに登園

今日、ふみ一週間ぶりに登園した。湿疹は、ほぼひいた。

「おれ、まる一週間休んじゃっだよ、熱出してさー」と、ふみは、ばら組に入った途端、別に誰に向かってでもなく、独り言のように、だけど大声で喋る。
照れてるね、ふみは。


昨日までずっと休んでたふみは、体調がよくなると共に、「もうみんなは、ふみのこと忘れたかな、忘れたでしょう?」と保育園のことを気にし始めた。

昨日、ふみと郵便局に行く途中、同じ組のS君とそのママに会った。
S君はふみよりずっと月齢が低い子で、いつもにこにこしてる静かな子なんだ。ママの自転車の前カゴに座るS君は元気がなさそう。

「熱だしてしまって、ずっと休んでました」と、わたしは言うと、
「あらっ、すみません、うちのSが移ったのかしら。この子、ヘルパンギーナになって…」とS君のママは申し訳なさそうに言う。

「いいえいいえ、ふみは突発だったんです」
「えー、この年齢にも突発になるんですね」、S君のママは目を丸くする。

そうね、普通2歳ぐらいまでには、ほとんどの子がかかってしまうけどね。


郵便局から出た時、また自転車に乗ってるS君とそのママに会った。


ふみはわたしの腕を掴んで、「何回も会ってどうするのよ」とつぶやきながら、S君たちを背にして見ないように、横に向いたまま進行。
「ふみ、蟹さんになっちゃうよ、横に向いて歩いてると」と言ったら、ふみはさらに目までつぶってしまった。


何日間もお友達と会ってないと、照れるというか、なんかちょっと複雑な気持ちになるね、わかるわかる。


ふみに元気をつけるため、ふみの大好きな大根餃子を作りました。


この大根・人参・豚肉の蒸し餃子が、ふみは本当に大好きなの。
「どこの餃子よりもおいしい」と言っているふみには、これが“おふくろの味”になるのかしらね。



久しぶりの登園、ふみはだいじょうぶだったのかしらと案じながら、お迎えに。

玄関の角を曲がったところで、遠くからふみはお部屋から「ママ〜」と飛び出してきた。


「どう?保育園楽しかった?」わたしはふみを抱き上げる。
「うん!楽しかった」

「ふみ君、お部屋に出る時、先生に一言を言わないと困るわよ、約束でしょう?」と後ろから先生が。


よかった〜、ふみは元気そうで。楽しそうで。やっと、安堵したわたし。


先生やお友達とバイバイして、ひんやりの風に吹かれ、ふみとおうちに着いた。

ふみのカバンに、いろんなものが入ってた。
「これなに?」と、わたしは、わけがわからない赤い線と緑の線を書いた、真ん中が折り畳んでる紙をふみに見せ、聞いた。
「これ?パソコン」

パ、パソコンなんだ。「なるほど」、真ん中折り畳んでるのは、うちのノートパソコンに似てるわ。

「これは?」大きい紙に、長身のおさげの女の子が描いてある。
「これはHちゃんがくれたの」
ほんとうだ、Hちゃんのひらがなの名前が書いてあった。

長身でおさげのHちゃんは、3歳ぐらいから字に興味をすごく持つようになったとそのママから聞いたことがあるわ。今や、ひらがななど、らくらく読み書きができる、頭のいい子なんだ。


「これは…」
「ビービーダン」
待って、このフィルムケースに入ってるビービーダンは、Sちゃんのじゃないのかな。
カメラマンのSちゃんのパパじゃないと、今時このフィルムケース、もうあまり見かけないもの。

それに、ビービーダンが大好きなSちゃんは以前、公園でビービーダンを拾って、こんなケースに入れて、わたしに見せてくれたことがあるのを覚えてる。


「ふみ、このビービーダンはどうしたの?」
「え?ぼくの」
「そう?Sちゃんのじゃないの?ふみ間違えたよ、きっと」
「う〜ん、Sちゃんに聞いたもん、Sちゃんは違うって言ったから。保育園のものじゃないし、もうぼくの」


困ったな。
好きだから、勝手に自分のものにする、ふみぐらいの年齢の子はやりそうなことだ、とてもよくわかる。
自分の小さい時も似たようなことをしたことはあると思う。

でもこのまましてはいけない。


「Sちゃんのよ、間違いない。だってこのケースはSちゃんのパパしか持ってないものだから。ふみ、返しに行こう、Sちゃん今あっちこっち探してるかもしれないよ、ぼくが間違えて自分のカバンに入れちゃったと言って、Sちゃんに返せば、きっとSちゃんもわかってくれるから」

「いやだ、聞いたもん、違うって言ったよSちゃん」

困ったな。

「でも、Sちゃんのじゃなくても、ふみのじゃないでしょう?先生に返そう」


ふみは黙った。黙ってわたしの手を繋いで、保育園へ向かった。


遠くから、ちょうど保育園から出て来たSちゃんとそのパパが見えた。

Sちゃんは前を走ってる、そのパパは大きい荷物を持って後ろで歩く。

「ふみ君〜どうしたの?遊ぼう!ブランコやろうよ」Sちゃんは、わたしたちに気づいたようだ。
「お!」ふみも走って向かって行った。

「SちゃんSちゃん、これ、Sちゃんのじゃないの?」とわたしは手に握ってる半分までビービーダンが入ってるフィルムケースを差しだす。

「う〜ん、違うよ、知らない」

えぇぇ〜知らないって… その一瞬、わたしは自分がふみの言ってた言葉を全然信用していないこと気づく。
…、ごめんね、ふみ。なんだかママが、自分の想像したことを、ふみの言い分を全然聞かないで、勝手に自分の頭に定着させてる。

ごめん。
わたしって…。


「あ、これ、ずっと前のね、すみません。S、ほら、忘れた?」後ろからやってきたSちゃんのパパはそのフィルムケースを受け取った。
Sちゃんは二度とあのフィルムケースを見ようともしないで、ブランコを楽しそうに上下を大きくさせる。

Sちゃん、とうにビービーダンなんか興味はなくなったようだ。それを拾ったふみは、Sちゃんに確認してから、もらっただけなんだね。


笑顔を作って、「ふみ、あの…」どう言ったらいいのかわからないわたし、ふみは、何事もないように、Sちゃんの隣りでブランコ。


「立つよ、見てぇ」Sちゃんは大きく揺れるブランコを止めることせず、そのまま坐る姿勢から、立つようになった。

「おれも」ふみは恐る恐る立とうとしたが、できなかった。
ふみ、充分よ、だって前は坐ってもブランコができなかったもの。充分えらいよ。


「あそこ行こう」Sちゃんはブランコから降りて、奥の方へ走って、棒登りを披露。
ふみも慌ててサンダルを脱いで、棒登りに挑戦。



素手素足で棒登り、ふみはまだまだできない。Sちゃんはパパの助けで、だいぶ上まで行った。

全然登れないふみを見て、Sちゃんのパパはふみのお尻押し、ふみを上まで行かせた。


「ふみ、よかったね」、とわたしはまたSちゃんのパパに向かって「すみません〜」


蚊がたくさん飛んでて、足首あたり何ヶ所も刺された。


もう蚊取線香の季節ですね。



「♪何にも言わないでちょうだい、黙ってただ踊りましょう…」お風呂に入る前に、愉快に歌うふみ。