このほしを手に入れれば
朝ごはんの後、ふみはウルトラマンA(エース)を見たいと強く要望する。
パパはこの、怪獣と戦う、昔のヒーロードラマを録画してふみに見せてた。
今は、なんとかレンジャーやゴセイジャーとかを放送して、子供たちはそればっかり真似して熱中してるけどね。
ふみはウルトラマンや、そのあとのウルトラマンAに憧れてたまらない。
「ウルトラマンAは宇宙に帰った!」ふみはウルトラマンAをパパのために作った小物入れに入れた。
「へぇ〜 それが宇宙なんだ」
「うん、宇宙」
怪獣は宇宙にいるウルトラマンAを羨ましそうに眺めてる。
一話、見終わって、「ママ、今日は出たくない、うちで遊ぶ」とのふみの申し出があり、
「え?ふみ、いいの?」そりゃわたしはうちで休めたら申し分ないけど、雨でもないのに、うちにずっといていいのか、ふみは。
そう考えてるうちに、ふみは玩具の飛行機を取り出し、セロテープ、割り箸も探し出し、その割り箸を飛行機にセロテープで止め、ウルトラマンAの飛行機を作ってる。
たしかにその戦闘機のような尖がってるのと、ちょっと似てるわ。
それからふみはヒーローのように“戦い”を始めた。
擬声語を発しながら、ふみはキックとパンチの連発、仮想敵を次々倒す、地球を守ってる。
そういうふみをみているうちに、わたしは、うとうとしてしまった(現実逃避?)
何回か目は醒めるが、そのたびに戦い続けているふみの姿が目に入る。
急に、ふみは普段と違って、ゆっくりした口調で、
「この星を、手に入れれば、われわれの、植民地になる」と語る。
はあ?あ〜、あのなんとか星から来た怪獣のセリフだね。
「ママ、ママ、起きた?早く音楽、歌って、今、怪獣と戦うから、早く」
「♪遠く輝く夜空の星に…今だ!変身!…」やっぱり寝たふりにしよう。
こうやってほぼ半日以上過ぎてしまう。
夕方近く、ふみを説得して、やっと外に出ることになった。
玄関に立つふみは、うちの“L”字形の虫よけを手にしてる。
「それを持ってどうするの?」
「俺のバンバンだ」
バンバンと言うのは、鉄砲の意味なんだ。
ふみはその“L”字形の虫よけを半ズボンの腰のところに半分を入れ、そのまま出発。
歩きながら、ふみ、“敵”を見つけるたびに、その虫よけを手早く抜け出し、
「バンーバーンー」と打つ。
われわれ地球を狙ってる怪獣はこんなに多いのか。ふみ君、ご苦労さん。
パパの水泳もここで。今日は、ふみに水泳の幼児クラスを申し込んだ。
7月から、ふみにも本格的な水泳をやらせたいから。
帰りに、大きい交差点で、ふみと同じ保育園の卒業生のハーフの女の子のLLKちゃんと会った。
「ふみ、あれはLLKちゃんじゃない?」
「どこ?」LLKちゃんを見つけると、ふみはわたしの腕を握り、自分の目を隠して、照れ始める。
「LLKちゃん」仕方なくわたしは声をかける。
「こんにちは」、髪の長い、眉目秀麗のLLKちゃんはお行儀よく挨拶してくれた。
LLKちゃんはもう小学生なんだ。
夕食の時、パパにその話をしながら、「ふみはLLKちゃんが好きだったもんね」とわたしが言ったら、
「今も好きなの!」とふみは訂正する。
それはそれは失礼いたしました。