ビタミン剤

昨夜の雨もあがり、青空になったのは久しぶりなんだ。
その分は暑さは増すけど、これが夏だからね〜


「ふみ、ザリガニの水を換えに行こう」
昨日の雨は結構激しくて、公園へ行けなかったんだ。


わたしはバケツを、ふみは蚊取線香をぶら下げ、坂を下って公園へ。


おじいちゃんおばあちゃんたち、公園で輪投げのゲームをなさっている。ベンチにティッシュが何箱も置いてあって、優勝者のご褒美かしら。


「ふみ、ザリガニの水、結構濁ってるよ、夏だと毎日水を換えないとやっぱりだめね」

「ザリガニ君、ごめんね。ほんとうにほんとうにごめんね」顔をバケツの真上に伸ばして小さい声で言う。


「ふみ、今日も観音さまのお札所巡りにいこうか」
「え〜〜、暑いし、今日は遠くに行きたくない」
わたしがバケツを、ふみは蚊取線香をぶら下げ、坂を登る。


そうか、遠くへ出かけたくないか、なら、投票に行こうか、歩いて、期日前の投票所まで。ちょっと歩くけどね。


ザリガニをうちに置いて、汗を拭いて、ふみと手を繋いでまた出かけた。

うちに出たすぐ、ふみはつまずいた。泣きそうな顔するから、
「ふみ、コンビニでソフトクリーム食べようか、泣かないなら」
「ソフトクリーム?」
「ソフトクリーム。食べたいでしょう?」
「やった!」
「ふみ、今回だけだよ、ソフトクリームが食べられるからって、わざと転ぶ、と考えたりしてないでしょうね」

「あっ」ふみは目を丸くして、口も大きく開く、(図星された!)みたいなわざとらしい顔を見せる。
最近ふみは、よくこの顔を作って見せるんだ。おかしくて噴き出してしまう。


うれしそうにソフトクリームを食べるふみ。



「猫じゃらしだ!」
猫じゃらしを見かけると、ふみは必ず摘んでしまう。



一本を帽子に飾ってあげた。



15分歩いて、区役所の出張所に着いた。
投票して出てきたら、
「ママ、だれに投票した?鳩山総理大臣?」
「鳩山さんはもう総理大臣じゃないよ、今は…」
「わかった、菅総理大臣」
「おっ、すごいねふみ」
「だれに投票したの?小沢幹事長?」
ハッハッハ、毎日テレビ必ず見るのはニュースだから、よほと頻繁に出てくる言葉でしょう、ふみまで覚えたなんて。

「小沢さんも幹事長じゃなくなってるよ」
「幹事長は誰?」
「う…ん、だれでしたっけ…」

総理大臣は、保育園の園長先生より入れ換わりが激しいものですね。


「選挙の車だ!」
白い手袋の手に向かって、ふみは懸命に手を振る。
「ありがとうございます!その小さな手が…」選挙車から感激の声が。

「また選挙の車だ!」
信号前に止まった車に、候補者の苗字をひらがなで書いてある。
「は、と、や、ま、ママはとやまだよ」
ほんとうだ。たまたま前総理大臣と同じ苗字だわ。ややこしいね。


「ふみ、薬局に付き合ってくれる?日焼け止めがなくなりそうだから」
「薬局?行く行く!ママ、あのウルトラマンばんそうこうを買ってね」、なるほど、妙に積極的だと思ったら、ウルトラマンかぁー。

パパがウルトラマンなんとかのDVDを買ってきて、ふみは余計に夢中になった。
「ママ、初代ウルトラマンをやってる時、パパは6歳だって」
そう〜
でもふみは、明らかに怪獣などの出る場面で、怖がってる。


ウルトラマンの絆創膏を買った。
「これ、僕持つから、袋に入れないで」とのふみの要望に、店員さん笑って、テープを貼って、絆創膏をふみに渡した。


「ママ見て、これ、ウルトラマンレオだよ」
ウルトラマンレオ、それだけは知ってる。小さい時のふみを連れて、デパートのウルトラマンショーを見に行って、この角が付いてるレオが出て来た途端、ふみが号泣した。


「僕が赤ちゃんだったから、怖かったよきっと」この話題を出すたびに、ふみはこう弁明する。


スーパーでお買い物。レジで支払いする時の店員さんは、Kさんの奥さんだった。
「なんでこの籠をこの色のに換えるの?」
ほんとうだ、精算した品物を、灰色の買物籠に入れ換えられてるね。
「よく気付いたね、ふみ君」Kさんの奥さんは、いつものようにやさしくふみに話しかける、「この色の籠は、もうお金を払ったよということ」
「じゃ、その緑のは?」
「まだお金を払ってないよ、ということ」Kさんの奥さんはそう言って、緑の買物籠をしまう。


買ったものを袋に入れながら、「ふみ、Kさんの奥さんはいつもやさしいね」と言ったら、
「Kさんの奥さんなの?えっ、Kさんの奥さん?ぼく、聞いてくる」ふみ走ってレジまで行って、
「あの、Kさんの奥さんですか?」とほんとうに聞いた。


すぐ走って来た、「Kさんの奥さんだ。ぼくが聞いたら、そうですよって言った」
「あら、ふみ知らなかったの?前も話したと思うけど」
「あ、Kさんの海苔」と言って、ふみまたレジに行った。


Kさんは韓国に行くたびに、韓国海苔をおみやげに下さる。ふみはそれののり巻きご飯が大好き。


ふみはKさんの奥さんに海苔のお礼に言ってきたようで、満足そうな顔で戻ってきた。


いろんな小さなお花が売ってる。
ふみが籠を持って、ミントやお花を3、4個選んで買いました。


ふみもお花が好きでよかった〜


できるだけ日陰を沿って、買い物袋をいっぱい持って、ふみとうちに着いた。

冷たい麦茶を飲んで、昨日録画した「耳をすませば」を見る。ふみ、真剣な顔で見てたけど、そんなに長く続かなかった。ふみにとって、2時間の映画はやっぱりまだ長いでしょうね。



ベランダに行って、買ってきたお花たちを植え替える。小さい時、よく母とこういうことをしていたな〜。お花が大好きな母親ですから。



土に穴を掘ったりするのは、ふみもお手伝いをしてくれた。土をいっぱいこぼしたけどね。

それと、お水をやるのは、ふみにはなにより楽しそう。

「お花が喜んでるよ、ふみ」

「ぼくがたくさん水をあげたから?」
「もちろん!」


ミントも。今度お紅茶を頂く時、一枚を摘んで入れようかな。




かすみ草



「ふみ、てんとう虫がいるよ」
「どこどこ?」

「ほんとうだ!ぼくのうちに来てくれるのうれしいね、ママ」
「ね〜」


「ふみだめよ、そのままほっといて、掴んでなにするの?」
「違う違う、お花の上に置いてあげるから、そうしたらずっとここにいてくれるかもしれないじゃん」



と言って、でもやっぱりがまんできなくて手にとって見たり触ったりするふみです。




3時のおやつに、昨日もらったキノコチョコのお菓子をふみに食べさせた。
とっても喜んでた。普段はこういうお菓子まず買ってやらないから。


その後、畳みの上に落ちたカスを、ふみは口に入れてしまう。

このことでどれぐらい注意したのかしらね。もう赤ちゃんじゃないんだから、ふみはよくわけのわからないものを口に入れる。


熱を出すたびに、何でも口に入れるからこうなったのよと聞かせてる。
その都度深刻そうな顔で聞いて、もうしないと誓うふみは、よくなった途端忘れてしまう。


今日はわたしは、かなしい顔を見せ、
「ふみ、たいへんなことになった。あれはゴキブリを退治する薬なんだ。ふみが食べてしまって、ちょっと…」
「嫌だママ、嫌だ嫌だ、死にたくない死にたくない、薬を飲む」ふみは泣きだした。

わたしはさらに絶望な顔で、「薬はないのよ。なぜなら、ゴキブリ退治の薬を食べる人間はまずいないから、だからそれの薬は、誰も作らないから…」

「ママ〜ママ〜死にたくない〜」

「ママだってふみを死なせたくないよ、ふみがしんだら、ママもしぬしかないから」と言って、わたしも釣られて涙がにじむ(なんでよ!)


「ふみ待って、仏さまのところに、お薬があるかもしれない、お願いしてみる」涙を流しながら、わたしは仏様の前で手を合わせる(なんなんでしょう)


茫然とするふみに、ふみには見覚えがないんだろうなとの小さいビタミン剤を渡し、
「ふみ、これ、助かるかもって、飲んで」


しくしくして、ふみはむさぼって錠剤を飲み、水を飲み、
「ママ、ちょっと甘い」ふみは甘い笑顔を見せた。
「ママ、あしたは、三十三観音にお参りに行こう」



パパが水泳から帰ってきて、亡き父の命日の今日のお経を、三人であげました。

リンを鳴らすふみ。




こんな、夏の土曜日でした。