重陽
うろこ雲ですね。
このうろこ雲は、秋の季語にもなってるそうですね。
秋だ〜 日が明らかに短くなったわ。
ふみは自分で歯を磨いて、顔を洗う。
ベランダで洗濯を干してるわたしのところに、ふみは顔に塗るクリームの瓶を持ってきて、「ママ、やって」
「ちょっと待ってね」
ふみが瓶からクリームを出すのは、させてない。加減が分からないからと思って。
ふみは瓶を持って、あっさりと引っ込んだ。
うん?これもこれであやしいわね。
こっそり部屋に入ってみてみたら、
ふみはティッシュを持って、慌てて床を拭いてる。
やっぱりね〜
「こぼしたでしょう。いいよ、拭くから、これはちゃんと拭かないと、滑るよ」
怒られてないと見て、ふみは笑った。
あははは、ふみの顔、クリームが余って、白い線になってる。
どれだけ搾りだしたのかしら。
午前は、片付けたり、ふみの保育園から返って来た靴を洗ったりしてた。
新聞紙を広げ、ふみの靴の砂をたたき落とす。叩けば叩くほど、出て来る出て来る。もうこのまま二日間いけそうな気がする。
「ふみ、これ、どうなってるの?」
「ごめんなさい」
「ごめんなさいじゃなくて、毎日砂の中で遊んでるの?」
「公園だけど」
ふみは積み木で遊んで、コマで遊ぶ。
昼に食べようと冷凍のさんまを取り出したら、ふみはさっそくその冷凍さんまの上でコマを回す。
「無理でしょうに」と言うわたしを、ふみは得意そうに見返す。
あ、ちゃんと回ってる!
昼食の、具だくさん(全部野菜)のお味噌汁も、ふみはちゃんと飲んでた。
昼寝をしそうにもないので、スイミングスクールにはまだ早いが、ふみと出かけた。
久しぶりに駅の向こうの教会に行きました。
静かで、けど湿っぽくない、明るい天井はとても高い。
目を閉じれば、あっという間に10分は経つ。頭がすっきりしたというか、休めた。
ふみは、つまらなさそうにいたけど、時々小さい声で「カマキリでもいればな」と。
いるわけないでしょう。
聖堂からでて、結婚式の撮影と遇った。ふみは手を振る。新婦は気付かなかったけど、新婦の隣りの女性が気づき、ふみに手を振って、微笑んだ。
「よかったねふみ、幸せのお裾分けをもらったね」
今日もふみはとっても頑張った。
「今日は蹴伸びをやったよ、ぼく上手だった」だそうです。
喫茶店に入り、アイスココアを飲む。
「ふみ、Y先生と何を話したの?」
Y先生はふみが好きな男の先生なんだ。
「Y先生?喋ってないよ」
「Y先生と喋ったよ、見えたもん。教えたっていいじゃない。」
「喋ってないよ、泳ぐ時忙しいから、喋らないよ」
「あそう、それは失礼。でもふみ、Y先生に抱きついてたね」
「してないよ、ママはそう見えただけ」
あそう。
ふみは揺らしながら、坐ってから立つ、立つからまた坐り、自由に風を切って、飛んでる。
一軒のおうちのガレージに、小学生の男の子とお母さんがしゃがんで、いくつかの大きいケースの中を覗き込んでる。
「ママ、あれはカブトムシだよ。ママ、聞いて、聞いて」
もうちょっと大きいお兄ちゃんか、完全に大人なら、ふみは全然お構いなしで話かけるけど、どうも小学生は怖がるというか、遠慮がある。上下関係が微妙だからでしょうか。
「あの、カブトムシでしょうか」
「そうなのよ」お母さんは優しく話してくれました。
息子さんが幼稚園の時にカブトムシを飼って、それがタマゴを生んで、数がどんどん増えてきて、
「今は41匹あるの」と小学生は言う。
この小学生のお兄ちゃんは全然こわくない、紳士的だとわかって、ふみは積極的にいろいろ聞きだした。
ケースの中の土が、もくもくと動きだし、白くて大きい幼虫が出て来た!
ぎゃ〜やっぱり、わたしは…、声出ないように、精一杯頑張った。
「ね〜 でもここまできたら、捨てるにも捨てられないのよ、もうどうしようかって…」お母さんは苦笑い。
「でもぼくはこわくないよ、ぼく触れるよ」とふみが。
「う…ん、人間の手にはね、油が付いてる、だから手のまま触るのは、できるだけしないほうがいい、幼虫にダメージになるから」小学生はやっぱり紳士的だった。
「見せて下さって、ありがとうございます」
小学生とお母さんと41匹のカブトムシの幼虫をあとにした。
ちなみにその41匹の幼虫は、これからは土の中にいて、それから蛹になり、カブトムシの姿になるのは、来年の6月だそうです。
道草をして、もう5時を過ぎてしまいました。日が完全に暮れたわ。
「こんばんは、日が短くなりましたね」I君とそのお母さんだ。「たこ焼きを買いに行って来たの。5、6人は並んでたけど、でもすぐ買えてよかった」
たこ焼き!そうだ、三丁目に銀だこが昨日開店したもんね。すっかり忘れてた。
明日、たこ焼きを買いにいかないと。
今日は、旧暦9月9日重陽節ですね。