無題

今日は昨日よりさらに暖かい。
薄めのコートでも、ちょっと速歩きしますと、暑く感じます。


わたしのお休みの日に、こんなお天気に恵まれ、ほんとうにラッキー。
午前、無理のない運動をして、それから新宿へ。


洋服屋さんに覗き、並んでるのは、もう初夏の服なんだ。試着したり、店員さんとお喋りしたり、あ〜、なんて楽しい、なんてリラックスの時間なんでしょう。



けど、こののんびりした幸福感は束の間とは。その時は…。


二着の柔道着やベットボトルのお茶を、キャリーで引っ張って、保育園へ、ふみとU君を迎えて、柔道へいく。


保育園のお部屋に入って、U君はわたしを見かけると、大喜びに走って来て、通園カバンなどの仕度をする。
ふみはまだ遊び途中の玩具に未練ありがなら、こっちに向かう。


「あ、ふみ君のお母さん、ちょっといいですか」と担任の先生が。


途端、ふみ急に動きが早くなり、テキパキと通園カバンを取り、玄関へ向かって走りだした。

なんかイヤな予感。


後ろからふみを見てみると、大きく飾ってるお雛様のところへ行って、
目を閉じて、手を合わせて、拝んでる。


それを見てわたしは、思わずため息をつく。
今日の穏やかな幸せな気分、これで終わりだなと、自覚した。


公園で遊ぶふみは、いきなり同じ組のお友達に、柔道のわざをかけ、あわやその友達が飛ばされそうな時、幸い先生がすぐ傍にいて、止めて、危険なことを避けた。
だそうだ。

「あの、柔道に先生に伝えてもらえますか?道場以外で、柔道のわざをかけないようにと、ふみ君を注意するようにしていただきたいことを」担任の先生は切実な表情でわたしにいう。


保育園の先生というのは結構大変な仕事です。たくさん子供の面倒をみるので、誰かがケガをすると、先生が責任を問われる場合がありますから。なので、言うことを聞かなかったりするふみは、手を焼くのでしょう。


とにかく今回は、大事に至らなかったことが不幸中の幸い。もし先生がすぐ傍にいなかったら、あの子の倒れる場所が悪かったら、そう想像するだけでぞっとしてくる。


道教室に向かう道、ふみは珍しくおとなしくU君の手を繋ぎ、U君はわたしの手を繋ぎ、三人で交通安全を守って、普通に歩く。走るではなくて。


「ふみ、公園でなんでお友達に…」
「ぼく悪くない、だって僕なんもしてないのに、急に僕のことをバカと言うから」
「だから手を出すの?ママいつも言ってるじゃない。物事は言葉で解決する、暴力は結局なんにも解決できない、ママいつも言ってるんでしょう。ふみはもう5歳、言葉で自分の気持ちを伝えて、言葉で問題を解決する能力を身につけないと」
「なんで僕のことバカだと言うの?」
「言われて嫌だったら、嫌だと言えばいいんじゃない。嫌よ、やめて、って言えないの?言って、それでも聞いてくれないなら、先生に言えばいいんじゃない、手を出すのは、最低、しかもなにも解決しない」


もう、この話、繰り返し繰り返し、もうどれぐらい言い聞かせたのでしょう。
なんでこの子覚えられないの?
いつもふみに、自分の気持ちを、キチンと言葉で伝えるように、と言い聞かせてる。
こうしてほしい、ああしてほしくない、好きだったら好き、嫌だったら嫌。

ちゃんと言葉で表現できないと。
だれも自分の気持ちをわかるわけがないから。


ふみはどうでもいいことを喋るが、肝心なことを言葉で表すことができない(か、しない)。


今日のことだって、先生はただ、ふみが急に柔道のわざを練習したくなったとしか思っていないようで、ふみが相手にバカだと言われたことは、知らない。ふみは先生に叱られて、いつものようにただただ黙っていて、弁解しないから。
もちろん、いかなる理由でも、さきに手を出すのは、許されることではないが。


同じことを、もうこれ以上どう言ったらいいのかは、わたしは自分の限界を感じる。くたびれた。


もうわたしはこの子をどうしようもないんだな。そう思えてならない。


ひどく疲労感を感じました。


保育園の先生に苦情を言われたって、別にたいしたことないじゃないか、と思う親もいるに違いない。


わたしはそういう人じゃない。
自分を苦しめる必要はないと、頭でわかっても、やはり苦しむ。


「ふみ、ママは強い人間じゃないんだから、これも堪えられる、あれも堪えられる、という人間じゃないんだから、今さら頑張っても、もう無理だから。だからふみは…」
担任の先生に苦情を告げられると、どうしでもあれこれと考えてしまい、苦しい。


ふみは、やはり黙る。

「ふみ、教えて、どう言ったら聞いてくれる?教えて、ママそうするから」
やはり黙るふみ。何を考えてるのか、全く見当つかない。


人間同士の気持ち、実はこんなに通じないものですね。


午前のほのぼのした穏やかな明るい気分、まるで十年も前のように、懐かしい。