今日で

去年だったかしら、仕事先に、ヤクルトのお姉さんが訪問販売に来るようになった。
大きいカバンに、いろんな種類のヤクルト製品が入っていて、なんとなくみんなは買って飲んでました。

その女の子と、なんとなくみんなは話しをするようになりました。

16で子供を産み、シングルマザーとして、誰の手も借りず、娘を育てる。
今は19歳で、子供は3歳。お風呂も無いアパートで娘と暮らしている。そう話している彼女は、明るくて元気。


それからは、みんなの買うヤクルトの本数は、なんとなく増えて来た。


暮れに、彼女は「この仕事、もう3月でやめることになった」と。

それからは、彼女は娘を連れてお仕事をするようになった。

お母さんととてもよく似ているちっちゃい女の子、玄関に置いてあったカラフルの子供用スリッパを、履きたくて、ぐずぐず。いいよと言われて、履いて、喜んでた。


お母さんが外に置いてる自転車に、ヤクルトを取りに行くのに気づき、「ママは勝手に行っちゃだめでしょう、だめでしょう」と怒った。


頭を撫でられるのは嫌がるが、手をタッチするのは嬉しそうだった。



今日、彼女とそのちっちゃい娘がまたヤクルトを売りに来た。
娘はいつもより、かわいい服を着てた。
いつものようにお菓子をあげた。
彼女はお礼を言って、それからは、今日で最後だと、言った。


今日で…。
3月と聞いて、すっかり3月いっぱいまでだと思った。
今日だと知っていたら、ちっちゃい女の子に何か用意したかった。かわいい髪飾りとか、一個や二個じゃなく、もっとたくさんのお菓子とか。
今日がお雛祭りなんだから。


「そうなの、今日までなの、長い間、ありがとうございました。来週からは、別の人が来ますので」


あなただから、みんなこうやって買いたくなるんだと、でも言えなかった。


「お気をつけて」、「お元気でね」、「頑張ってね」
「ありがとうございます」
ちっちゃい女の子は、嬉しそうにみんなとタッチして、お母さんと一緒に出て行った。
そう言えば、親子の名前すら聞いてなかった。


今日は寒いお雛さまの日だった。




風呂上がり、ドライヤーの箱を頭にかぶり、「コックさんだよ」とふみは楽しんでる。