春の雪
朝から冷たい雨が降っています。
週明けは保育園に持って行くものがたくさんで、雨は歓迎できない。
いつもより少し余裕を持って出られてよかったと思えば、
玄関で雨靴を履こうとしたふみは、まだ顔を洗ってないことに気づきました。
「トォー、ホォー、ソイヤー」などと叫んで、仮想敵と戦ってばかりいないで、出かける準備をしたらどうなの、と言っても無駄だしね。
「いいよ、遅くなるから、今日だけ顔を洗わなくていいじゃない、どうせ雨だから」
なんで雨だと顔を洗わなくていいのか、自分も意味不明の発言をしてしまう。
洗わなくていいと聞いて、ヤッターとふみは喜ぶかと思ったら、ふみ、泣いた。
「いやだいやだ、いやだもん、えええ…」
「わかった、じゃ、早く洗ってきて、待ってるから」
洗面台から、水のパシャパシャの音と、
「いち、に、さん…」水を掬って、顔を洗う回数を数えるふみの声が聞こえてくる。
思わず笑ってしまう。
積もることはなかったが、空中に舞ってるのは、大雪と言ってもオーバーではない。
あ、ザリガニはどうかしら。昨日が啓蟄で、ザリガニは完全に蘇ることでしょうか。
今日のこの最高気温が4度の中、寒さを堪えて、…。
ザリガニ、いなかった。
ザリガニのバケツが倒れて、中の水が枯れ、砂利は、半分外に散らかってる。
ザリガニは、いない。
猫かカラスの仕業に違いない。
ザリガニ、この長い寒い冬を堪えきって、やっとあちらこちらから春の知らせをもらえるところで。
ヒゲと背中に緑の苔が付いて、水を換えるたびに少しずつ流されて行って、
ザリガニが、その飛び出ている目玉で、わたしをじーっと見てたのは、
ついこの前だった。
暖かくなったら、またあの二つの大きいハサミを振り回す日を待っていた。
餌をパクパクと食べ、パックしてお散歩する日を、待っていた。
ザリガニ、キレイに食べられた。
殻のかけらさえ見つからない。
午後、雪が上がり、細かい雨となり、寒さは変わらない。
ふみをお迎え。先生の話によれば、ふみは一日咳はなく元気だった。
シロップ、効いたね。
ただお昼はほぼ一口も食べてない。
「食欲がないではなくて、食べものが気に入らないですね」と先生が。
こんなことは初めてじゃないから、先生もわかってるようだ。
「ふみ、よくお昼食べてなくても平気ね。お腹すかない?」
「すかないよ」
「すかない?」やせ我慢だ。
「今日は雪降ってたの知ってた?」
「知ってたよ、みんな窓から見てた」
今日は、今日はザリガニが…、
言えなかった。
咳が止まって、明日はふみはバス遠足に行ける、よかったね。ふみ。
水族館にも行くようで、ふみは水族館で何が見られるのを楽しみにしてるかというと、
「マグロ!」
夢ないな。
もっとほかのお友達のように、ペンギンさんとか、イルカとか、かわいい発想、ないの?
夜、冷たい雨まだ上がらない。
ザリガニ、春が来る矢先に、食べられた。